「美羅様の残滓が、全て消滅したか。だが……この場にはニコットがいる」
美羅の残滓が全て消滅した。
その報告は賢のもとにも届いたのだろう。
賢は吹っ切れたような言葉とともに不敵な笑みを浮かべた。
「手嶋賢様」
ニコットは賢に対して、今後の方針を提示する。
「ニコットが以前、告げた吉乃一毅様から言付けを覚えていますか?」
「言付け?」
賢は顎に手を当てて、ニコットの言葉を反芻する。
「『究極のスキル』を使って、美羅様を生き返させてほしい」
「ーーっ!」
ニコットが口にしたのは、一毅が最期に残した遺言。
それは、死にゆく者が残された者達に対して遺した言葉。
一毅のその願いは、今までのどの言葉よりも賢達の心に突き刺さっていた。
「ニコットはそのために、美羅様と特殊スキルの使い手をシンクロさせることができます」
ニコットの意味深な言葉に、賢はインターフェースを操作して、改めて機械人形型のNPCであるニコットの情報を表示させた。
「シンクロ……。それを使えば、今この場で美羅様の真なる力を覚醒させることができるのか?」
「確証はできませんが、不可能ではないと判断します」
賢の意向に応えるように、ニコットは淡々と告げる。
ニコットは、他の自律型AIとは違う仕様を持つ不思議なNPCだ。
実は、『創世のアクリア』のプロトタイプ版の開発者である一毅によって、究極のスキルを促すために作られた機械人形型のNPCである。
だが、その事実は、望達はもちろん、規格外の力を持つ紘さえも知らない。
「蜜風望。美羅様の真なる力の発動には、君と椎音愛梨の力が必要だ」
「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」
ゆっくりと手を差し出した賢の誘いに、望はきっぱりと否定する。
「そうか。だが、君達がいくら拒んでも、美羅様は君達を求める。君が椎音愛梨のために、この世界へとログインしているように」
「なっ!」
賢の静かな決意を込めた声。
付け加えられた言葉に込められた感情に、望は戦慄した。
「君達が今、行っていることは全て無駄だ」
「そんなことはない!」
憂いも喜びも、全ては美羅の特殊スキルの力で開闢されていく。
賢が掲げる理想に、望は沙汰を言い渡す。
「この電磁波。何者かが、マスターにジャミングしようとしている?」
その時、周囲を窺っていたプラネットは、奇怪な電磁波に気づいて、痛々しく表情を歪ませた。
先程までおこなわれていなかった、シンクロを伴う電磁波が発生しているーー。
だが、電磁波はまだ届いていないのか、望自身に頭痛は発生していない。
誰が電磁波を発生させているのでしょうか?
その不可解な現象を前にして、プラネットは一抹の不安を覚えた。
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