「私達から逃げる必要はありません」
賢に促されて前に進み出たかなめは、無感動に望達を見つめる。
「あなた方が女神様とシンクロすることで、あまねく人々を楽園へと導くことができるのです。これからあなたがおこなう功績は、未来永劫、称えられるでしょう」
かなめは両手を広げて、静かな声音で告げた。
「さあ、蜜風望、そして椎音愛梨。女神様のために、その全てを捧げなさい。あなた方の意思は、未来永劫、女神様の意思へと引き継がれていくのですから」
「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」
「悪いけれど、私は協力するつもりはない」
かなめの戯れ言に、望とリノアは不満そうに表情を歪める。
「美羅は、特殊スキルであるーー究極スキルそのもの。だから、俺達、特殊スキルの使い手とシンクロすることで、彼女は目覚め、俺達と同じ動作をするんだな」
「美羅は、特殊スキルであるーー究極スキルそのもの。だから、私達、特殊スキルの使い手とシンクロすることで、私は目覚め、私達と同じ動作をする」
前に紘が語った真実を思い返して、望とリノアは噛みしめるように反芻する。
ただ、今は、濁流みたいに押し寄せてくる感情に耐えるだけで精一杯だった。
特殊スキル。
世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。
そして、全ての世界そのものを改変させることすら可能な、万能の力。
世界の根源へと繋がる話に、望はふと座りの悪さを覚える。
「そもそも、伝説の武器は何のために存在しているんだ?」
「そもそも、伝説の武器は何のために存在しているの?」
「美羅様のためです」
「「美羅のため……?」」
どうしようもなく不安を煽るそのフレーズに、望とリノアは焦りと焦燥感を抑えることができなかった。
「伝説の武器は、あなた方が知る限り、カリリア遺跡の報酬で提示されていたものだけですね」
「「それはーー」」
予測出来ていた望の言及に、かなめは訥々と語った。
望は改めて、かなめが口にした言葉を脳内で咀嚼する。
カリリア遺跡の報酬以外に、伝説の武器の名前を目にしたことはないーー。
「もしかして、他にもクエストの報酬としてあるのか?」
「もしかして、他にもクエストの報酬としてあるの?」
不可解な空気に侵される中、望とリノアは慄然とつぶやいた。
そうーー。
『創世のアクリア』のオリジナル版でも、この仮想世界ーープロトタイプ版でも、伝説の武器の名前を目にしたのはカリリア遺跡の報酬だけだった。
望の思いとは裏腹に、かなめは夢見るような表情を浮かべて応える。
「伝説の武器は、『創世のアクリア』のオリジナル版、そしてプロトタイプ版でも存在しています。あなた方が直に見たことがない理由、それは私達、高位ギルドが独占していたからです」
「「なっ!」」
望達の驚愕をよそに、かなめは懐かしむように笑みを堪えた。
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