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留菜マナ
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第ニ百九十五話 緑陽の雫②

公開日時: 2021年7月15日(木) 16:30
文字数:1,139

「私達から逃げる必要はありません」


賢に促されて前に進み出たかなめは、無感動に望達を見つめる。


「あなた方が女神様とシンクロすることで、あまねく人々を楽園へと導くことができるのです。これからあなたがおこなう功績は、未来永劫、称えられるでしょう」


かなめは両手を広げて、静かな声音で告げた。


「さあ、蜜風望、そして椎音愛梨。女神様のために、その全てを捧げなさい。あなた方の意思は、未来永劫、女神様の意思へと引き継がれていくのですから」

「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」

「悪いけれど、私は協力するつもりはない」


かなめの戯れ言に、望とリノアは不満そうに表情を歪める。


「美羅は、特殊スキルであるーー究極スキルそのもの。だから、俺達、特殊スキルの使い手とシンクロすることで、彼女は目覚め、俺達と同じ動作をするんだな」

「美羅は、特殊スキルであるーー究極スキルそのもの。だから、私達、特殊スキルの使い手とシンクロすることで、私は目覚め、私達と同じ動作をする」


前に紘が語った真実を思い返して、望とリノアは噛みしめるように反芻する。

ただ、今は、濁流みたいに押し寄せてくる感情に耐えるだけで精一杯だった。


特殊スキル。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。

そして、全ての世界そのものを改変させることすら可能な、万能の力。


世界の根源へと繋がる話に、望はふと座りの悪さを覚える。


「そもそも、伝説の武器は何のために存在しているんだ?」

「そもそも、伝説の武器は何のために存在しているの?」

「美羅様のためです」

「「美羅のため……?」」


どうしようもなく不安を煽るそのフレーズに、望とリノアは焦りと焦燥感を抑えることができなかった。


「伝説の武器は、あなた方が知る限り、カリリア遺跡の報酬で提示されていたものだけですね」

「「それはーー」」


予測出来ていた望の言及に、かなめは訥々と語った。

望は改めて、かなめが口にした言葉を脳内で咀嚼する。


カリリア遺跡の報酬以外に、伝説の武器の名前を目にしたことはないーー。


「もしかして、他にもクエストの報酬としてあるのか?」

「もしかして、他にもクエストの報酬としてあるの?」


不可解な空気に侵される中、望とリノアは慄然とつぶやいた。


そうーー。

『創世のアクリア』のオリジナル版でも、この仮想世界ーープロトタイプ版でも、伝説の武器の名前を目にしたのはカリリア遺跡の報酬だけだった。


望の思いとは裏腹に、かなめは夢見るような表情を浮かべて応える。


「伝説の武器は、『創世のアクリア』のオリジナル版、そしてプロトタイプ版でも存在しています。あなた方が直に見たことがない理由、それは私達、高位ギルドが独占していたからです」

「「なっ!」」


望達の驚愕をよそに、かなめは懐かしむように笑みを堪えた。

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