「奏良、徹よ、そういうことだ。吉乃信也から情報を聞き出す手段を考えている間、愛梨の護衛はおまえ達に任せる。もしかしたら、俺達の思いもしない手段で愛梨を狙ってくるかもしれないからな」
「分かった。愛梨のために、僕は『レギオン』と『カーラ』の襲撃に備えよう」
「なっ! 愛梨は俺が守るからな!」
激しい剣幕で言い争う二人をよそに、有達は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームへと足を進めていった。
「妹よ、話し合いは時間を要することになる」
「うん。それまでの間、私達が愛梨ちゃんを護るよ」
有の発言に、花音は両手を広げて熱く意気込みを語る。
有は紘達に導かれてギルドホームの奥へと進んでいった。
「愛梨ちゃん。『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームの中を回ろう」
花音は感慨深げにギルドホームを見渡しながらつぶやいた。
「……ギルドホーム、久しぶり……」
久しぶりに触れるギルドホーム内の喧騒に、愛梨は息を呑み、驚きを滲ませる。
愛梨は今まで仮想世界への行き来を制限されていた。
周囲のもの全てが懐かしく感じる。
「よし、愛梨ちゃん、ギルドホームを散策しよう!」
花音は右手をかざすと人懐っこそうな笑みを浮かべた。
「……うん」
愛梨は噛みしめるように応える。
ただ、今は濁流みたいに押し寄せてくる感情に耐えるだけで精一杯だった。
「愛梨と散策、いいな」
「僕は『レギオン』と『カーラ』の襲撃に備えないといけない。それなのに何故、僕はいつものように愛梨を見守っているだけなんだ」
そんな中、花音達の様子を窺っていた二人の声が揃ってギルドホーム内に響き渡った。
その途端、ギルドホーム内に不穏な空気が流れる。
「愛梨は俺が守るからな!」
「残念だが、今後も君の出番はない。僕が愛梨を守るからな。ただひたすら、後方で援護してくれ」
徹が非難の眼差しを向けると、奏良はきっぱりと異を唱えてみせた。
「……おまえ、いつも一言多いぞ。愛梨の護衛は俺が務めるからな!」
「なっ、愛梨の護衛は僕がする!」
激しい剣幕で言い争う徹と奏良をよそに、花音と愛梨はお目当ての場所を目指してギルドホーム内を回っていく。
残されたのは険悪なムードで睨み合う二人の少年だけだった。
「あっ……」
愛梨に異変が起きたのはギルドホームの奥を歩いていた時だった。
「愛梨ちゃん、大丈夫?」
「……っ」
花音が疑問を口にしたその瞬間、表情を強張らせていた愛梨の身に変化が起きた。
光が放たれると同時に、ストロベリーブロンドの髪の煌めきが飛散し、光芒が薄闇に踊る。
光が消えると、そこには愛梨ではなく、望が立っていた。
「ーー愛梨から、もとに戻ったのか?」
意識を取り戻した時、望はすぐに自身の身に起きた違和感に気づいた。
先程まで自身の特殊スキルにより、愛梨と入れ替わっていたはずなのに元の姿に戻っている。
「望、もとに戻ったんだな」
望の姿を見て、徹は明確な異変を目の当たりにする。
「望。おまえに戻ったのか……」
愛梨の護衛を務めていた奏良はどこか落胆した声でつぶやいた。
「とにかく一度、紘達に戻ったことを伝えた方がいいかもな」
「そうだな」
徹の率直な意見に、状況を把握していた望は頷いた。
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