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留菜マナ
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第四百六十一話 死者殺しの魔術士⑧

公開日時: 2024年3月15日(金) 16:30
文字数:1,002

予測できていた望とリノアの即答には気を払わず、かなめは確かな事実を口にする。


「あなた方が如何に阻止しようとしても、美羅様の真なる力の発動は必ず行われます。その時、あなた方を通して、美羅様の神託が世界に降り注ぎます」

「俺は協力するつもりはない!」

「私は協力するつもりはない!」


望とリノアの断言すらも無視して、かなめは一拍おいて流れるように続ける。


「美羅様の真なる力の発動が行われたら、あなた方の認識も必ず変わります。これは、全て定められた事。世界の安寧のためなのです」

「「ーーっ」」


付け加えられた言葉に込められた感情に、望とリノアは戦慄した。

当然だ。

協力するかどうかについては、既に何度も問答し、結論が出ている。

協力しない。

望は何度も、そう答えたはずだ。


「蜜風望、そして、椎音愛梨。美羅様は、あなた方の力を必要としているのです。どうか、美羅様に力をお貸し下さい」


語尾を上げた問いかけのかたちであるはずなのに、かなめは答えを求めていない。

いや、答えは求めているのだ。

ーー協力する。

その決まりきった答えだけを。


「ーーくっ」

「ーーっ」


どうしようもなく不安を煽るかなめの懇願に、望とリノアは焦りと焦燥感を抑えることができずにいた。

花音は慌てたように声を上げる。


「どうして……そこまで美羅ちゃんの真なる力の発動にこだわるの?」

「この世界が美羅様を求めているからです」

「それじゃ、意味が分からないよ」


花音が本題を投げかければ、返ってきたのは冷めたような乾いた瞳。


「西村花音さん。いずれ来(きた)る未来、特殊スキルの使い手達は、私達の手中に入ります。そうすれば、あなたも自然と受け入れるはずです」

「そんなことないから!」


花音の即答に、ひたすら柔和なかなめの微笑に、かすかに苛立ちのようなものが混じる。


「ああ、俺達は絶対に受け入れないからな」

「うん、私達は絶対に受け入れないから」


花音の強い決意を前にして、剣を構えた望とリノアは同意を示した。


「心配するな、妹よ。このまま、美羅の真なる力の発動を阻止すれば、必ず勝機はある」

「うん。お兄ちゃん、そうだね」


杖を構えた有の宣言に、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて続ける。


「ここで諦める選択を選ぶなんて、私達らしくないもん。それに望くんと愛梨ちゃんの特殊スキルは奇跡の力だから」

「そうだな」

「そうだね」


まぶしいほどの花音の笑顔に、望とリノアは笑みの隙間から感嘆の吐息を漏らした。

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