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留菜マナ
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第三百三十五話 此処はサンクチュアリ②

公開日時: 2022年4月1日(金) 16:30
文字数:1,252

「そのことで、俺から提案があるんだ」

「「提案?」」


徹の意外な発言に、望とリノアは怪訝そうに首を傾げる。


「ダンジョン調査を行っている最中、望達は『レギオン』と『カーラ』の者を捕らえるつもりなんだよな。俺も協力させてほしい」


予想外な徹の申し出に、望とリノアは目を瞬かせた。


「徹も、俺達がダンジョン同時調査を行う際には同行するのか?」

「徹も、私達がダンジョン同時調査を行う際には同行するの?」

「ああ。俺達が、望と愛梨を守るためには、それしか方法が思いつかないからな。もし、電磁波の攻撃を受けたら、シルフィが護ってくれるはずだ」


とらえどころのない空気を固形化させる望とリノアの問いに、徹はここぞとばかりに宣言する。


緑色の光を身に纏った人型の精霊。

妖精達とさほど変わらない体躯の精霊シルフィは、主である徹の意思を汲んだように、望のもとに歩み寄った。


「シルフィ、よろしくな」

「電磁波、防ぐの」


望は、自身の周りを浮遊するシルフィを見つめる。

シルフィは、音の遮断以外にも、その気になれば気配遮断、魔力探知不可まで行うことができた。


まあ、俺はいつも、望達とは何かしらの形で関わっているしなーー。


徹は気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、シルフィに今後のことを指示する。


「シルフィ、ダンジョン同時調査の時は頼むな」

「うん」


徹の指示に、シルフィは呼応する。

周囲に視線を巡らせていた花音は、興味津々の様子で徹のもとを訪れると甘く涼やかな声で訊いた。


「徹くん。これからは、愛梨ちゃんのお兄さんも、私達と一緒に戦ってくれるのかな?」

「いや、そこまでは聞いていないな。少なくともダンジョン同時調査の時は望達と同行するはずだけど、な」

「じゃあ、ダンジョン同時調査の時は、私達と一緒に戦ってくれるかもしれないね」


徹の答えに、花音はあまり冗談には思えない顔で言って控えめに笑う。


「そうですね」


プラネットが憂いを帯びた眼差しで頷いた途端、突如、部屋の外の空気が変貌した。


「紘様、こちらになります」


部屋の前に控えていたプレイヤー達が、紘に対して一斉に恭しく礼をする。

プレイヤーの一人が慇懃にドアを開けると、紘は望達が待ち構えていた部屋へと入った。


「待たせてすまない」


望とリノアは顔を片手で覆い、深いため息をつくと、状況の苛烈さに参ってきた神経を奮い立たせるようにして口を開いた。


「「……椎音紘」」

「蜜風望、久しぶりだな。もっとも、愛梨としては、何度も会ってはいるが」


紘は有達のことなど眼中にないように、望だけを見ていた。

柔和な表情。

だが、瞳の奥には確かな陰りがある。

有は席を立ち、前に進み出ると、不穏な空気を吹き飛ばすように口火を切った。


「椎音紘よ。徹の話からして、俺達がここに来た理由も知っているようだな」


有の鋭い問いに、紘はようやく有達に視線を向ける。


「ダンジョン同時調査の件、そして、久遠リノアを救うために『レギオン』に赴くための手段についてだったな」

「ああ」


有はそう答えたが、全てを見抜いている紘の発言に不信と戸惑いの色を隠せなかった。

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