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留菜マナ
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第五百四十五話 伝説の武器④

公開日時: 2025年1月3日(金) 16:30
文字数:1,154

リノアの意識が戻ったとはいえ、それはわずかの間だけだ。

その間に『レギオン』のギルドホームに行って、美羅を完全に消滅させる必要がある。

徹が踵を返すタイミングを見計らっていると、賢は柔和な笑みを浮かべて言った。


「鶫原徹くん。私達の邪魔をしないでもらおうか」

「なら、そもそも騎士様が不意討ちなんてするなよな」

「君に無礼を働いたことは謝罪しよう」


徹の訴えに、賢はあっさりと自分の非を認めた。


「だが、これは特殊スキルの使い手を手中にするための必要な事項だ」


徹の嫌悪の眼差しに、賢は大仰に肩をすくめてみせる。


「さて、戦いの前に、最後の交渉をしようではないか」

「おまえ達と交渉する余地はないからな」


徹の考えを見透かしたような賢の発言に、徹は恨めしそうに唇を尖らせる。

賢は目を伏せると、静かにこう続けた。


「なら、君ではなく、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターにお越し願いたい。わざわざ、君達に全てを任せている理由を知りたい」

「……おまえ、知っていて、わざと聞いているだろう」


賢の戯れ言に、徹は不満そうに表情を歪める。


「久遠リノアの意識が一時的に元に戻っても、こちらが有利なのは変わらない。君達の行動は無駄なあがきだ」

「無駄なんかじゃない!」


賢の言葉を打ち消すように、徹はきっぱりとそう言い放った。


「そもそも、おまえ達が言う美羅様を完全に消滅させるために、ここまで来たんだからな!」

「……愚かな」


徹の答えを聞いて、賢は失望した表情を作った。

殺伐とした雰囲気が、この場を支配する中。


「いいだろう。この戦いが最後だ……」


長い沈黙を挟んだ後で、賢は淡々と告げる。


「蜜風望、そして、椎音愛梨」


賢はゆっくりとした動作で、今度は望に手を差し出してくる。


「美羅様の真なる覚醒には、君達の力が必要だ。もはや、君達の意志は関係ない。この場で椎音愛梨に変わってもらおう」


賢はあくまでも事実として突きつけてきた。


「望くんと愛梨ちゃんは渡さないよ! 望くんと愛梨ちゃんは、私達の大切な仲間だもの!」


賢の断言を、花音は眦(まなじり)を吊り上げて強く強く否定する。


「ああ。望と愛梨は、俺達の大切な友人で仲間だ。渡すわけにはいかない」

「愛梨を守ることが僕の役目だ」


強い言葉で遮った花音の言葉を追随するように、有と奏良は毅然と言い切った。


「マスターと愛梨様を、あなた方に渡すわけにはいきません!」

「そんなことさせるかよ!」


プラネットと徹も、賢の申し出を拒む。

望はそんな有達に苦笑すると、ため息とともにこう切り出した。


「悪いけれど、俺達は協力するつもりはないからな」

「敢えて、無益な争いを好むか」


望達の否定的な意見を、賢は予測していたように作業じみたため息を吐いた。

その時、ニコットは単なる事実の記載を読み上げるかのような、低く冷たい声で宣告する。

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