「ねえ、お兄ちゃん。吉乃信也さんは『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドホームで捕縛されることになるのかな?」
「恐らくな」
『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達。
それぞれが戦いの後始末に追われる中、花音は具体的な疑問を口にする。
「だったら吉乃信也さんから、リノアちゃんを元に戻す方法を探ることはできないかな?」
花音はさも名案を思いついたという顔で有に振り返った。
「妹よ、吉乃信也はリノアの容態を何度も診察している。少なくとも手がかりは知っているだろう。だが、何らかの方法で口を割らない可能性もある」
有は顎に手を当てると花音の発想に着目する。
「まあ、その方が確実だろうな」
花音と有の意見に触れて、奏良は納得したように頷いてみせた。
有達は残りのクエストの全貌を『アルティメット・ハーヴェスト』に託して、王都『アルティス』へと足を向ける。
ギルドホームに向かっている途中、冒険者ギルドが勇太の目に入った。
「冒険者ギルドか。ここで望達と出会わなかったら、リノアの元に戻す方法を見出だす事が出来なかったんだよな」
勇太は望達と再会したあの時の出来事を思い浮かべる。
『創世のアクリア』のプロトタイプ版にログインできるようになった時、勇太達は死物狂いでリノアを救う方法を探した。
だが、その日は見つけることが出来ず、彼らは後ろ髪を引かれる思いで現実世界へと戻ることになる。
リノアを守る体裁を保つため、勇太達はその後も必死に情報を集めた。
だが、何一つ手がかりになりそうなものは見つからない。
理想と現実の落差を、その度に一筋の希望で埋めねばならなくなる。
勇太の脳裏で、かってのリノアの声が反芻される。
『勇太くん』
大輪の向日葵のような、思わず目を奪われるリノアの笑顔。
幼い頃の勇太は、毎日が楽しくて仕方がなかった。日々、大好きな幼なじみの女の子と遊んで、家に帰れば優しい笑顔で家族が迎え入れてくれる。
そんな当たり前の幸せな日々。
だが、リノアが眠った状態になってしまったことで、そんな日々は失われてしまった。
仮想世界だけではなく、現実世界にまで影響を及ぼしてくる高位ギルド。
自分達には、手に余る事柄だ。
考えるだけで気が重くなってくる。
リノアを救う方法が分からない。
答えが出せないまま、勇太の脳裏には、リノアへの様々な思いが去来する。
このまま、何も手がかりは見つからないのではないだろうか。
勇太が内心でそう思っていた矢先、転機が訪れた。
ギルドの入口が賑わい、新たな人々の到来を告げていた。
手がかりを探していた勇太はギルドの入口へと視線を走らせる。
そこには、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』に挑んだ際、リノアの側にいた望の姿があった。
「あの時の!」
勇太は期待に表情を綻ばせながら、望達のもとへと駆け出していった。
あの出会いがなかったら、きっと勇太達の立ち振る舞いは一向に変わる事はなかったはずだ。
今も五大都市を巡り、リノアを元に戻す方法を必死に探していただろう。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!