「くっ……!」
信也は窮地に立たされた気分で息を詰める。
「どんな蕾でも、いつかは花開くものだ。そうだろう、美羅!」
たとえ、それが罪炎の花でもいつかは花開くものだと信也は信じていた。
仮想世界だけに咲く淡き花々。
過去に繋がる愛の花。
遠く離れた鎮魂歌(レクイエム)を乗り越えて、信也は力強く宣言する。
「美羅、頼む! この状況を変えるには君の明晰夢の力が必要だ!」
強大無比な『明晰夢』の力ーー覚悟の焱(えん)は優しく罪を吞み込んでいくことになるだろう。
罪炎が世界を焼くように。
望達が怯える事のないように。
長く苦しむことのないようにーー信也は魔力を奔らせる。
今度は紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』を阻まれるまでに発動させようと意気込む。
しかしーー
「「勇太くん!」」
「望、リノア、任せろ!」
声に呼応するように、望とリノアをブラインドして近づいていた勇太が信也にとっては死角から現れた。
「行くぜ!」
勇太の振るった大剣が、意識を紘に集中していた信也に叩きつけられる。
「くーーっ」
咄嗟の判断で回避行動を取った信也は、直後にそれが取り返しのつかないミスであったことに気づいた。
「これで終わりだ!」
「これで終わらせる!」
信也の回避した方向には望とリノアが迫っていた。
望とリノアは気迫を込めて乾坤一擲の技を放つ。
望とリノアの声に反応するように、それぞれの剣からまばゆい光が収束する。
二人の剣の刀身が燐光(りんこう)を帯びると、かってないほどの力が満ち溢れた。
「「ーーっ」」
その時、リノアの位置が移動し、望と対面するかたちへと変えられる。
「奏良……頼む!」
「奏良……お願い!」
「喰らえ!」
望とリノアの呼び掛けと同時に、奏良は距離を取って続けざまに四発の銃弾を放った。
弾は寸分違わず、信也に命中する。
HPを示すゲージは少し減ったものの、いまだに青色のままだ。
「その行動は予測済み――」
信也の言葉が途切れる。
何故ならーー間合いを詰めた望とリノアが信也の間近に迫っていたからだ。
「「はあっ!」」
望とリノアはその一刀に全てを託し、信也に向かって連なる虹色の流星群を解き放つ。
望の特殊スキルと愛梨の特殊スキル。
それが融合したように、信也に巨大な光芒が襲いかかろうとする。
「「ーーっ」」
だが、再びリノアの位置が移動し、望と対面するかたちへと変えられてしまう。
「八方塞がりの状況のようだな」
信也の動きを見つめた有は覚悟を決める。
信也の『明晰夢』の力は、紘の紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』の力によって抑えられている。
その好機を活かしてリノアの意識を失わせようとするが、信也はあくまでもリノアを転移させることに集中していた。
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