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留菜マナ
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第四百ニ十五話 明日の君が泣くから④

公開日時: 2023年11月10日(金) 16:30
文字数:1,077

「有。これからは機械都市『グランティア』に赴くことを重点に置く必要がありそうだ」


奏良は腕を組んで考え込む仕草をすると、『アルティメット・ハーヴェスト』のメンバーの一人が提示した資料の情報を物言いたげな瞳で見つめる。


「奏良よ、その通りだ。しかし、どのような方法を用いて行く手段を確保するか、悩みどころだな」

「……あの、有様」


思案に暮れていた有を現実に引き戻したのは、躊躇いがちにかけられたプラネットの声だった。


「これからも電磁波の発信源を特定できるように頑張ります。機械都市『グランティア』にもご同行させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「もちろんだ、プラネットよ」

「ありがとうございます」


有の承諾に、プラネットは一礼すると強気に微笑んでみせた。

一悶着ありながらも、今後の話し合いはひとまずの一区切りをつける。

周囲に視線を巡らせていた花音は、興味津々の様子で勇太のもとを訪れると甘く涼やかな声で訊いた。


「ねえ、勇太くんとリノアちゃんって、小学校に入る頃に知り合ったんだよね。どちらから声をかけたの?」

「俺からだな」

「そうなんだねー」


勇太の答えに、花音は嬉々として声を弾ませる。

そこで勇太が核心に迫る疑問を口にした。


「望達は中学に上がった頃に知り合ったんだよな。確か、ゲーム内でーー」

「……ああ、その通りだ。このゲームをきっかけにな」


勇太の言葉に呼応するように、有は物憂げな表情で腕を組んだ。

徹もまた、意識を切り替えるように話に入ってくる。


「俺は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターである紘とその妹の愛梨とは、小学校に入る前に知り合って……なあ、紘」

「ああ、懐かしいな」


紘は昔日を呼び起こすように徹を見つめる。

三人が初めて出会った頃は明日を恐れることも、過去を嘆くこともなく、幸せな今だけがあった。

願わくば、いつまでも見ていたかったのかもしれない。

この胸の奥底を灼く焦燥にも似た、けれどより甘やかな過去の景色を。


「その頃から、俺は紘と愛梨と一緒に通学したりとかなり仲が良かったんだ」

「……かなり? そう思っているのは君だけではないのか?」


徹の発言に、奏良は納得できないように猜疑心を向けてくる。


「俺は愛梨としても生きているから、徹とも幼なじみのような感じがするな」

「私は愛梨としても生きているから、徹とも幼なじみのような感じがするね」

「そうだね」


望とリノアが咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は元気づけるように望を見上げる。

話し合いは途中で脱線しつつも、一通りの会話が終わったところで、望達は『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドを出たのだった。

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