「信也様!」
後方に大きく後退した信也の姿に、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は明確な異変を目の当たりにする。
紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』の力によって信也の動きは捉えられていた。
何度試みても、『明晰夢』の力を行使することができない。
その事実は信也のHPの度重なる減少という形となって表れていた。
「……『明晰夢』の力を行使することができないのは宝の持ち腐れだな。やはり、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターの実力は伊達ではないな」
起き上がった信也は表情に苦悶の色を滲ませる。
「素晴らしい力だ、椎音紘。美羅が求めているものは特殊スキルの使い手。私達も同様に求めているものは君達、特殊スキルの使い手の力だ。ならば、君達を手に入れる必要がある」
「なら、私達を止めてみるがいい」
微かな高揚が窺える紘のその反応を見て、信也の背筋に冷たいものが走った。
「骨竜は厄介だな」
迫り来るモンスター達を何とか捌きながら、徹は踏み止まっていた。
「行け!」
徹が行使する光龍は、身体を捻らせて骨竜へと迫る。
しかし、光龍が攻勢に出ても、骨竜達は次々に襲い掛かってきた。
それらを打ち崩しかかっている間にも『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達は前に進み出て、行く手を阻むように包囲を固めてくる。
当初の目的はダンジョンの同時調査ーー残りのダンジョンの調査を全て終えることと、護衛クエストのダンジョンで『レギオン』、もしくは『カーラ』の者を捕らえて情報を聞き出すことだった。
だが、出鼻を挫かれた時点で作戦の再考を余儀なくされる。
しかし、この戦いで『レギオン』の者か、『カーラ』の者を捕らえたくても、動きが阻まれている望達はなかなか実行に移すことができない。
「前に進めないな」
「前に進めないね」
包囲を崩そうしても、すぐに強固な陣形を組まれてしまう。
望とリノアは剣を構え、活路を見出だすために周囲を見渡した。
必然的に信也との戦闘は紘とイリス達、骨竜達の対策は徹達に任せることになる。
望とリノアが駆け出し、目の前の『レギオン』のギルドメンバーに向かって一閃しようとしたーーその瞬間だった。
「「ーーっ」」
リノアの位置が移動し、望と対面するかたちへと変えられる。
望とリノアの鍔迫り合いは一瞬で終わり、高い音を響かせて離れた二人は、そこから驚異的な剣戟の応酬を見せた。
互いの剣技は、きっちり打ち消し合う一閃で処理される。
高度で複雑な剣閃の応酬。
だが、それはリノアの座標をずらされることで、『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達には届かない。
「「ーーっ!」」
このまま続けても埒が明かない状況に、望とリノアは咄嗟に急制動をかけた。
「このままじゃ動くこともままならないな」
「このままじゃ動くこともままならないね」
容易に身動きが取れない望とリノアは表情を曇らせる。
仮想世界は夢幻。
しかし、美羅の存在は不変。
リノアの動きを止める手段はないのか……。
どこまでも激しく降る雨が、望の脳内で弾ける。
そこにモンスターの群れがじわりと迫り寄ろうとした。
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