兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第三百話 緑陽の雫⑦

公開日時: 2021年7月23日(金) 16:30
文字数:1,014

「お兄ちゃん、このままじゃ八方塞がりだよ……」


周囲に視線を巡らせていた花音が、焦るようにつぶやいた時だった。


「あっ……」


顔を上げた花音が小さな悲鳴を上げる。

いつの間にか、『レギオン』のギルドメンバー達が花音の前まで迫っていた。


「花音、多少のダメージは堪えろ」

「うわっ!」

「なんだ?」


花音に迫り来るモンスターを中心に、奏良が放った銃の弾が全方位に連射される。

放たれた弾は、対空砲弾のように相手の攻撃にぶつかり、『レギオン』のギルドメンバー達を怯ませた。


「マスターと愛梨様を渡すわけにはいきません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を迫ってきた『レギオン』のギルドメンバー達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

だが、倒すまでには至らない。


「このままでは勝てないな」


『レギオン』のギルドメンバー達を見据えながら、奏良は事実を冷静に告げた。


「奏良くん、奥の手とかないの?」

「せいぜい、弾に風の魔術を込めて放つしかできないな」


花音が恐る恐る尋ねると、奏良は自分と周囲に活を入れるように答える。

奏良は風の魔術を使い、弾に魔力を込めていった。

弾の外殻が次々と変色していく。


奏良くんの風の魔術で、何とか出来ないかな?


その様子を眺めていた花音は、この不利な状況を覆すために思考を重ねた。


奏良くんの風の魔術……?


その時、不意の閃きが花音の脳髄を突き抜ける。


「徹くん。カリリア遺跡の報酬で手に入れた『マナー・シールド』って、『アルティメット・ハーヴェスト』の人達も手に入れたんだよね」

「ああ」


花音が生じた疑問の答えは遅滞する事なく、徹によって示された。


「だけど、もう残っていないな」

「……そうなんだね」


花音の期待は見事に打ち砕かれた。

徹の答えに、花音は不満そうな眼差しを向ける。

だが、すぐに状況を思い出して、花音は徹に尋ねた。


「最初にボス討伐を行ったギルドのみに配布された伝説の武器って、星詠みの剣以外にもあるんだよね」

「ああ。アルビノの鞭、アサルトライフル、神速の弓だな」


花音が発した疑問に、徹は記憶を辿りながら応える。


「その武器って、『レギオン』の人達が持っているんだよね。誰が持っているのかな?」

「妹よ、確かにそうだな」


有もまた、花音と同じ疑問を抱いていた。

星詠みの剣は賢が使いこなしている。

だが、他の伝説の武器は誰の手に渡っているのだろうか。

しかし、その疑問に応えることもなく、賢は望達に視線を向けていた。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート