放課後、紘と愛梨は徹と小鳥ともに自宅へと歩を進めていた。
夕闇色の空を背景に、紘と愛梨が並んで歩いていく。
駅に着いた徹は足早に人込みの中を歩き、周囲の光景に視線を張り巡らした。
「周辺に変な奴らはいないみたいだな」
「恐らく、私達のことを警戒しているのだろう」
徹が抱いた懸念材料に、紘は明確に表情を波立たせた。
紘は自身の特殊スキル『強制同調(エーテリオン)』によって、『何も手を打たなくては』『レギオン』と『カーラ』の者達が愛梨に接触してくることを事前に織(し)り得ている。
だが、同じ特殊スキルの使い手ーー美羅の力が働けば、その情報を覆されてしまうことを理解していた。
故に慎重に。
しかし、予想されていた『レギオン』と『カーラ』の者達による接触はなく、不可思議な沈黙だけが下りる。
「どこもかしこも美羅を敬う人達ばかりだな」
徹の言うとおり、行き交う人々は時折、美羅に対して祈りを捧げるだけで、特殊スキルの使い手である愛梨を気に留めることはなかった。
だがーー。
「怖い……」
帰宅途中の愛梨は不安を形にするように身を縮める。
先程から誰かに見られているような視線を感じていたからだ。
「愛梨、心配することはない。私達がそばにいる」
「今日はずっと、一緒についていてやるからな」
「うん……」
紘と徹は肩を震わせる愛梨を気遣って、一緒に並んで歩いていく。
愛梨はそっと顔を上げると躊躇うように口を開いた。
「……ねえ、お兄ちゃんは、私がここにいても、良いと思う?」
「当たり前だ」
紘の即座の切り返しに、愛梨は蕾が綻ぶように柔らかく微笑んだ。
「俺もそう思うぞ!」
「……う、うん」
徹がここぞとばかりに口を挟むと、愛梨は掠れた声でつぶやいた。
その仲睦ましげな様子を、奏良は少し離れた場所から絶え間なく眺めていた。
「結局、『キャスケット』の代表として、愛梨の護衛に当たっているのは僕だけか。今から有達が向かうと、ここに着くのが夜になるからな」
もはや有達の助勢は見込めないと、奏良は諦めたように続ける。
「それにしても救援要請のはずなのに何故、僕だけが離れた場所で愛梨を見守っているんだ」
奏良は納得できないというように不満をあらわにした。
「そもそも『レギオン』と『カーラ』の者達が愛梨を狙ってくる時点で、プライバシー制度はもはや無意味だろう。君達、『アルティメット・ハーヴェスト』はいい加減、プライバシー制度の廃止に動いてくれ」
「……おまえ、いつも一言多いぞ」
後方から発せられた奏良の素っ気ない言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせた。
険悪なムードで睨み合う二人をよそに、いつの間にか紘達が住む家が見えてくる。
「お兄ちゃん……」
愛梨は何かに怯えるようにして、紘の背後に隠れる。
「愛梨、どうしたの?」
「小鳥、何者かが潜んでいる。愛梨のことを頼む」
小鳥が態度で疑問を表明すると、携帯端末を手に取った紘は的確に情報を確認するようにそう言い放った。
「美羅様の真なる覚醒のために、椎音愛梨を捕らえなくては……」
この時、奏良と徹も気づいていなかったのだが、木々の隙間から愛梨の様子を窺っている者達がいた。
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