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留菜マナ
留菜マナ

第百九十七話 境界の魔術士①

公開日時: 2021年4月3日(土) 16:30
文字数:1,490

「やっぱり、寒い感じがするよ」


花音は、まるで極寒の地へと訪れたように身震いする。

花音の視界の先には、凛烈さをはらむ済んだ青空と、雪化粧を施した氷の洞窟があった。

だが、『創世のアクリア』のプロトタイプ版には、体感的に寒いと感じるようなシステムはない。


「この辺り一帯は、冬景色だからな。でも、ゲームの中だから、実際は寒くないだろう」

「この辺り一帯は、冬景色だからね。でも、ゲームの中だから、実際は寒くないよ」


花音の言い分に、望とリノアは少し逡巡してから言った。

その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「体感温度、リアルに設定したら凍えるよ」

「確かにな」


花音の訴えに、上空を見上げた徹は同意した。

『シャングリ・ラの鍾乳洞』の上空には、今回の調査対象である『サンクチュアリの天空牢』がある。

『サンクチュアリの天空牢』には、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』のように迎撃システムはない。

だが、『レギオン』と『カーラ』は、いつ介入してくるのかは分からない。

何事にも、用心に越したことはないだろう。


「マスター。この周辺では、電磁波の発生は感じられません」


望達が準備を整えている間、プラネットは目を閉じて、『レギオン』と『カーラ』による電磁波の妨害がないかを探っていた。


「そうなんだな。クエストの達成と牢獄の外観調査だけとはいえ、何事もなく戻れるといいんだけどな」

「そうなんだね。クエストの達成と牢獄の外観調査だけとはいえ、何事もなく戻れるといいんだけど」


インターフェースで表示した時刻を確認しながら、望とリノアは顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。


「空には、数多くの浮き島が点在しているようだな。その中には、小型のダンジョンも複数あるだろう」


有は準備を終えると、空を見上げて塔までの方角を見定めた。


「プラネットよ、頼む」

「有様、『サンクチュアリの天空牢』の位置特定、お任せ下さい」


有の指示に、プラネットは誇らしげに恭しく頭を下げる。


「……っ! 有様、『サンクチュアリの天空牢』は一昨日の地点より移動しています」


プラネットが『サンクチュアリの天空牢』の位置を探っていると、奇妙な違和感に気がついた。

浮き島の座標が、流れる雲に沿って点々と動いているのだ。


「浮き島は、雲と同様に動くのかもしれないな」


プラネットの説明を聞いて、有は悩むように首を傾げる。


「よし、望、奏良、プラネット、勇太、リノア、そして妹よ、行くぞ! 『サンクチュアリの天空牢』へ!」

「ああ」

「うん」


有の号令の下、望達は効果を確かめるように飛行アイテムを掲げた。

すると、飛行アイテムが光り、浮力が働いたかのように、望達の身体を上昇させていく。


「このまま、浮き島に向かうぞ!」

「空を飛ぶのってすごいねー!」


有と花音が大きく身体を動かすと、突き抜けるように空へと駆け上がった。

有達を追って、望達もまた空へと跳躍する。

高積雲を突き抜けると、どこまでも果てがないような青空が、望達の視界一面に広がった。

周辺には、数多くの浮き島が点在しており、そこには複数のダンジョンの姿が見受けられる。

その中に、明らかに異彩を放っている建造物があった。


「お城……?」


勇太が呆気に取られたようにつぶやいた。

姿を現したのは、想像していたような堅固な牢獄ではなく、童話の中に出てくるような美しい白亜の城だった。

パステルカラーの石を用いた西洋建築の城であり、幾つもの尖塔が並んでいる。

尖塔の天辺は、色も千差万別で統一されていない。

城は浮き島に根差しておらず、分厚い雲の上に建っている。

雲は積乱雲よりも白が濃く、綿花のような雰囲気を醸し出していた。

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