「なら、その称賛を驚きに変えてみせる!」
「楽しみにしておこうか」
勇太と賢。
互いの距離の間に流れるは一触即発の気配。
後はどちらが口火を切るかーー最早その程度の薄皮一枚だ。
『フェイタル・レジェンド!』
裂帛の咆哮とともに、勇太は力強く地面を蹴り上げた。
賢の出鼻を挫くように、勇太は大剣を構え、大技をぶちかます。
勇太の放った天賦のスキルによる波動が、賢を襲う。
だが、賢の動きは、勇太の想像とは一線を画していた。
「『星詠みの剣』!」
賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。
勇太からの攻撃を受ける瞬間を狙った予想を裏切る回復。
天賦のスキルによる波動を受けたその瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。
「なっ!」
起死回生を込めた技を覆されて、勇太は虚を突かれたように呆然とする。
『星詠みの剣』の光の魔術の付与効果。
それは『完全回復』だった。
「今度は攻撃を受けた直前での完全回復か……」
「ああ」
驚愕する勇太を尻目に、賢は一呼吸置いてから付け加えた。
「君達が私を倒すためには、完全回復が及ばない程の一撃必殺の攻撃を放って、私を戦闘不能にするしかないということだ。だが、今の君にはそこまでの余力はないはずだ」
「一撃か……」
賢の表情を見て、勇太は察してしまった。
一撃必殺を決めるためには、圧倒的な強さが必要になる。
賢の指摘どおり、かなめと『レギオン』のギルドメンバー達の対処に追われている今の勇太達には、そのような余力はない。
たとえ、勇太がこの場で、『サンクチュアリの天空牢』で新たに覚えた『フェイタル・トリニティ』を使っても、『星詠みの剣』を使いこなす賢を一撃で倒すことは困難だろう。
『アーク・ライト!』
「……っ! おじさん!」
その時、後方に控えていたリノアの父親は光の魔術を使って、望とリノア、そして勇太の体力を回復させる。
『お願い、ジズ! かなめ様の動きを止めて!』
それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、かなめの動きを制限しようとした。
しかし、それはあっさりと弾き返されてしまう。
「せめて、あいつの虚を突くことが出来ればいいんだけどな」
勇太は、自分が相対している賢の実力を改めて実感する。
賢達『レギオン』が、望達『キャスケット』を押しているーー。
その厳然たる事実は、徐々にHPにも現れていった。
賢による蹂躙とも呼べる絶対的強者の振る舞い。
互角だった剣戟は、ことごとく賢に弾き返される。
「絶対にリノアを救ってみせる!」
圧倒されながらも立ち向かっていく、勇太の強い気概。
賢はそれらを冷静に捌き、相殺していく。
賢の美羅のために尽くすその狡猾さと残忍さ、そしてその鮮烈な実力は、勇太が知る限りでも突出した存在であった。
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