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留菜マナ
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第ニ百九十九話 緑陽の雫⑥

公開日時: 2021年7月19日(月) 16:30
文字数:1,128

「なら、その称賛を驚きに変えてみせる!」

「楽しみにしておこうか」


勇太と賢。

互いの距離の間に流れるは一触即発の気配。

後はどちらが口火を切るかーー最早その程度の薄皮一枚だ。


『フェイタル・レジェンド!』


裂帛の咆哮とともに、勇太は力強く地面を蹴り上げた。

賢の出鼻を挫くように、勇太は大剣を構え、大技をぶちかます。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、賢を襲う。

だが、賢の動きは、勇太の想像とは一線を画していた。


「『星詠みの剣』!」


賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。

勇太からの攻撃を受ける瞬間を狙った予想を裏切る回復。

天賦のスキルによる波動を受けたその瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。


「なっ!」


起死回生を込めた技を覆されて、勇太は虚を突かれたように呆然とする。

『星詠みの剣』の光の魔術の付与効果。

それは『完全回復』だった。


「今度は攻撃を受けた直前での完全回復か……」

「ああ」


驚愕する勇太を尻目に、賢は一呼吸置いてから付け加えた。


「君達が私を倒すためには、完全回復が及ばない程の一撃必殺の攻撃を放って、私を戦闘不能にするしかないということだ。だが、今の君にはそこまでの余力はないはずだ」

「一撃か……」


賢の表情を見て、勇太は察してしまった。

一撃必殺を決めるためには、圧倒的な強さが必要になる。

賢の指摘どおり、かなめと『レギオン』のギルドメンバー達の対処に追われている今の勇太達には、そのような余力はない。

たとえ、勇太がこの場で、『サンクチュアリの天空牢』で新たに覚えた『フェイタル・トリニティ』を使っても、『星詠みの剣』を使いこなす賢を一撃で倒すことは困難だろう。


『アーク・ライト!』

「……っ! おじさん!」


その時、後方に控えていたリノアの父親は光の魔術を使って、望とリノア、そして勇太の体力を回復させる。


『お願い、ジズ! かなめ様の動きを止めて!』


それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、かなめの動きを制限しようとした。

しかし、それはあっさりと弾き返されてしまう。


「せめて、あいつの虚を突くことが出来ればいいんだけどな」


勇太は、自分が相対している賢の実力を改めて実感する。


賢達『レギオン』が、望達『キャスケット』を押しているーー。


その厳然たる事実は、徐々にHPにも現れていった。

賢による蹂躙とも呼べる絶対的強者の振る舞い。

互角だった剣戟は、ことごとく賢に弾き返される。


「絶対にリノアを救ってみせる!」


圧倒されながらも立ち向かっていく、勇太の強い気概。

賢はそれらを冷静に捌き、相殺していく。

賢の美羅のために尽くすその狡猾さと残忍さ、そしてその鮮烈な実力は、勇太が知る限りでも突出した存在であった。

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