花音達が警戒を緩めることなく、周辺をくまなく探っていく中ーー。
「それにしても昨日、愛梨の家でご馳走になったパンケーキは素晴らしかったな……」
昨日の出来事を思い返していた奏良は胸のつかえが取れたように表情を綻ばせた。
ギルド内のプレイヤー以外とは、現実では深く干渉させないプライバシー保護という制度。
その影響で奏良は現実世界では愛梨に声をかけることも、触れることもできずにいた。
しかし、昨日ようやく、パンケーキをご馳走になるという名目で、現実世界の愛梨と話すことができたのだ。
当然、喜びもひとしおである。
『奏良くん、今日は、ありがとう……』
奏良は目を伏せると、あの時の愛梨の柔らかな笑みを思い浮かべながら優しく語りかける。
「望。愛梨に危険が迫っている時はいつでも言ってくれ。すぐに馳せ参じよう」
「あ、ああ」
愛梨に対しての言葉に、望は何と答えたらいいのか分からず、曖昧な返事を返した。
それをどう解釈したのか、奏良は踵を返し、噛みしめるように言う。
「僕が必ず、愛梨を守ってみせる。そして今度こそ、君の不安を取り除いてみせる」
これから為すべきことを語れるほど明確ではない。だが、この恋を叶えたいと切望する。
それでも今はただ、愛梨の笑う姿が見たいから。
決然とした言葉を残して、奏良はギルドに向けて足を向けた。
「とにかく、望、奏良、母さん、妹よ 。あの隠し部屋のことを探るためにも、ギルドで一度、『サンクチュアリの天空牢』のダンジョンについて調べるぞ!」
「ああ」
「うん」
「そうだね」
「それしか、この状況を打破する手段はなさそうだからな」
有の方針に、望と花音と有の母親が頷き、奏良は渋い顔で承諾する。
目的が定まった望達は早速、ギルドへと足を運ぶ。
「マスター、おはようございます。リノア様が目覚めました」
「そうなんだな……」
望達がギルドに入ると、リノアの事を任せていたプラネットが控えていた。
アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出している。
「プラネットよ。恐らく、望がログインしたことで、リノアもまた、連動したように目覚めたのだろう」
「わーい、プラネットちゃん!」
花音が喜び勇んでプラネットにリノアの状況を聞いていたのも束の間、有は今後のことを改めて思案した。
「プラネットよ、『アルティメット・ハーヴェスト』の連絡は来ていないのだな?」
「はい、徹様からのご連絡は来ていません」
有の的確な疑問に、プラネットは訥々と答える。
「ダンジョン全域の索敵が終わるまで、しばらく連絡待ちか」
プラネットの報告に、奏良はカウンターに背を預けて、疲れたように大きく息を吐いた。
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