「リノアを元に戻したら、別の者が美羅の器になる。それを止めることはできないかもしれない」
徹は望達を護るようにして立ち塞がると、剣呑の眼差しを込めて告げる。
「なら、美羅そのものを消滅させる方法を突き止めるだけだ。そして、その方法の手がかりを吉乃信也は持っている」
「その通りだ。プロトタイプ版の運営は、開発者側の私達が握っているからな。それに私は医師として久遠リノアの症状の経過を見続けている」
「なっ!」
信也が語った真実に、勇太は虚を突かれたように目を瞬かせてしまう。
「賢達が行った美羅と久遠リノアの『同化の儀式』。その場には久遠リノアの両親もいた」
「確かにおじさんとおばさんは『レギオン』に所属していた施設の研究員だ。でも、洗脳の影響で『同化の儀式』について詳しいことは知らなかった」
その疑問は勇太の心に底の見えない亀裂を浸食させていく。
洗脳ーー。
それは美羅の器を選出するために、攫(さら)ってきた少女達の家族に施されていたものだ。
本来なら『レギオン』に所属しているリノアの両親に施されることはない。
しかし、リノアの両親もリノアを美羅の器として差し出すのを拒んでいた。
だからこそ、賢達は美羅が真なる覚醒を果たすために、リノアの両親に洗脳を施し、娘を差し出すことを躊躇うことなく受け容れさせたのだ。
「そうだろうな。たとえ洗脳が解けても、記憶が曖昧になるように施したのは私だからな」
「なっ……!?」
信也が発した驚愕の事実はこの上なく勇太の意思を突き動かした。
「おじさんとおばさんを洗脳したのは吉乃信也だったのか……」
勇太はリノアの両親が内密に洗脳されてしまった理由に固執する。
高位ギルド、『レギオン』。
リノアとリノアの両親が所属していたギルドであり、美羅を宿したリノアをギルドマスターとして讃えている危険なギルドだ。
押し寄せる不安の中、勇太が確信したのはこのまま手をこまねいていては、リノアを元に戻す機会が失われてしまうということだった。
「勇太よ、現実世界における美羅の適合者と謎の失踪事件。その際に行われた『同化の儀式』に美羅を消滅させる手がかりがあるのかもしれないな」
有は今までの話の流れからそう結論づける。
「恐らく、『同化の儀式』が行われたのは機械都市『グランティア』だろうな。だから、情報を非公開している」
「機械都市『グランティア』に留まっているニコットちゃんは、美羅ちゃんを消滅させる方法を知っているかもしれないね」
奏良が語った状況を踏まえて、花音は今までの謎を紐解いて推論を口にした。
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