「なら、これでどうだ! 『エアリアル・ライカ!』」
奏良は、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の中ボス、ベヒーモス戦を得て覚えた、新たなスキルを披露する。
奏良が放った無数の風の渦が、高速光線となって、縦横無尽に軌跡を描く。
予測できないランダム軌道の疾風に、『レギオン』のギルドメンバー達は虚を突かれた。
「これで終わりだ!」
「これで終わらせる!」
『レギオン』のギルドメンバー達の動きが止まったことを確認すると、望とリノアは乾坤一擲の技を放つ。
望とリノアの声に反応するように、それぞれの剣からまばゆい光が収束する。
二人の剣の刀身が燐光(りんこう)を帯びると、かってないほどの力が満ち溢れた。
「「はあっ!」」
望とリノアはその一刀に全てを託し、ボスモンスターに向かって連なる虹色の流星群を解き放つ。
望の特殊スキルと愛梨の特殊スキル。
それが融合したように、『レギオン』のギルドメンバー達に巨大な光芒が襲いかかる。
だが、賢達の動きは、望達の想像とは一線を画していた。
「賢様!」
天賦のスキルの使い手達が、賢の盾になるように、望達の前に立ち塞がる。
『『フェイタル・レジェンド!』』
「ーーっ」
天賦のスキルの使い手達が、勇太と同じ技を同時に放つ。
賢を守り抜くーー。
『レギオン』のギルドメンバー達は身命を賭して、その大任を全うする。
HPを半分以上減らされた『レギオン』のギルドメンバー達は、大きく吹き飛ばされて地面を転がる。
「その攻撃は、もはや意味はない」
望とリノアが放つ流星の剣を前に、剣を構えた賢はただ事実を口にした。
「しかし、蜜風望と椎音愛梨の特殊スキルが融合した力か。素晴らしい圧だな」
その静かな言葉とともに、賢は小さな音を響かせて剣を下段に構える。
「だが、その攻撃についても問題はない。今までの戦闘で、君の特殊スキルのプロセスは既に解析済みだからな」
「「解析済み? まさかーー」」
賢のその反応に、望とリノアは忌々しさを隠さずにつぶやいた。
「ああ。今までの戦闘で、私達が君達に干渉してきたのには理由がある。ニコットのシンクロを用いて、君のことをいろいろと調べさせてもらった。蜜風望、君の特殊スキルは既に把握している。後は、椎音愛梨の特殊スキルを解析するのみだ」
長い沈黙を挟んだ後で、賢は淡々と告げる。
今までのダンジョンでおこなわれた戦闘は、全て『レギオン』によって仕組まれたものだった。
あまりにも冷酷な事実に、花音と奏良は思わず感情を爆発させた。
「望くんと愛梨ちゃんに酷いことしないで!」
「今までの妨害には、そういった思惑があったというのか! 望だけではなく、愛梨まで苦しめようとするのか!」
「彼らに無礼を働いていることは謝罪しよう」
花音と奏良の訴えに、賢はあっさりと自分の非を認めた。
「だが、これは必要な事項だ」
花音と奏良の嫌悪の眼差しに、賢は大仰に肩をすくめてみせる。
「美羅様のために、私がするべきことだからな」
「美羅のため……?」
今の状況を冷静に分析する賢をよそに、勇太は苦痛と不可解が入り交じった顔でつぶやいた。
「吉乃美羅は、もういないだろう……」
勇太が発した悲哀の声に、賢は凍りついたように動きを止める。
その瞬間、沼底から泡立つように浮かんだ一毅の言。
『『究極のスキル』を使って、美羅を生き返させてくれないか……』
それは、一毅が賢達に託した遺言。
いつしか賢にとってーー賢達にとって、その望みを叶えることが生き甲斐となっていた。
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