「すごいね」
花音は、目の前の光景を見て身震いする。
花音の視界の先には、氷の水晶に固められた尖塔があった。
「『這い寄る水晶帝』という名前だけあって、本当に水晶で出来ているんだな。だけど、這い寄るってどういう意味なんだろうか」
「『這い寄る水晶帝』という名前だけあって、本当に水晶で出来ているんだね。だけど、這い寄るってどういう意味なのかな」
花音の言い分に、望とリノアは少し逡巡してから言った。
その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。
「もしかしたら、このダンジョンで召喚される使い魔のことじゃないのかな」
「そうかもしれないな」
「そうかもしれないね」
花音の訴えに、上空を見上げた徹とリノアは同意した。
『這い寄る水晶帝』の近くには、もう一つの調査対象である『ネメシス』がある。
残りの調査対象のダンジョンには、『サンクチュアリの天空牢』のようにプロトタイプ版のみ存在するダンジョンはない。
だが、『レギオン』と『カーラ』は、いつ介入してくるのかは分からない。
何事にも、用心に越したことはないだろう。
「よし、みんな、行くぞ!」
「ああ」
「うん」
有の呼び掛けを合図に、望達はそれぞれの武器を手に、果敢にダンジョン調査へと挑んだ。
『這い寄る水晶帝』のクエスト内容は、そのダンジョンで召喚できる使い魔を、ダンジョン内で成長させるという少し変わり種のものだ。
だが、今回はあくまでもダンジョンの外観調査と『アメジスト』の素材の入手だけだ。
出現するモンスターは同じ種類のモンスターであり、ダンジョン内も基本、ペンギン男爵が作成したマップ通りに進んでいけば、奥までたどり着くことができるだろう。
つつがなく、望達はダンジョンの奥へと歩を進めていった。
ダンジョン内部は細い通路が緩やかに延びており、両脇の燭台が周囲を薄く照らしている。
「ふむ。この先に現れるモンスターが『アメジスト』の素材を持っているのか。基本的に迷うことはなさそうだな」
有はインターフェースを使い、目の前に表示されているダンジョンマップに沿って歩いていく。
マップ通りなら、先には『アメジスト』の素材を持っているモンスターが現れるフロアがある。
周囲に視線を巡らせていた花音は、興味津々の様子で勇太のもとを訪れると甘く涼やかな声で訊いた。
「勇太くんとリノアちゃんって、幼なじみだったんだよね。いつ頃、知り合ったの?」
「小学校に入る頃だな」
「じゃあ、かなり長い付き合いなんだねー」
勇太の答えに、花音はあまり冗談には思えない顔で言って控えめに笑う。
そこで、勇太が核心に迫る疑問を口にした。
「望達は、中学に上がった頃に知り合ったんだよな。ゲーム内で出会ったのか?」
「……ああ、その通りだ。このゲームをきっかけにな」
勇太の驚愕に応えるように、有は物憂げな表情で腕を組んだ。
「俺は、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターである紘とその妹の愛梨とは、小学校に入る前に知り合ったんだよな」
勇太の問いかけに真剣な口調で答えて、徹はまっすぐダンジョン内を見つめる。
「その頃から、紘と愛梨とは仲が良かったんだ」
「……そう思っているのは、君だけではないのか?」
徹の発言に、奏良は納得できないように猜疑心を向けてくる。
「俺は愛梨としても生きているから、徹とも幼なじみのような感じがするな」
「私は愛梨としても生きているから、徹とも幼なじみのような感じがするね」
「そうだね」
望とリノアが咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は元気づけるように望を見上げた。
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