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留菜マナ
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第ニ百四十話 そして、その日まで君を愛する④

公開日時: 2021年5月16日(日) 16:30
文字数:1,442

「すごいね」


花音は、目の前の光景を見て身震いする。

花音の視界の先には、氷の水晶に固められた尖塔があった。


「『這い寄る水晶帝』という名前だけあって、本当に水晶で出来ているんだな。だけど、這い寄るってどういう意味なんだろうか」

「『這い寄る水晶帝』という名前だけあって、本当に水晶で出来ているんだね。だけど、這い寄るってどういう意味なのかな」


花音の言い分に、望とリノアは少し逡巡してから言った。

その指摘に、花音は信じられないと言わんばかりに両手を広げる。


「もしかしたら、このダンジョンで召喚される使い魔のことじゃないのかな」

「そうかもしれないな」

「そうかもしれないね」


花音の訴えに、上空を見上げた徹とリノアは同意した。

『這い寄る水晶帝』の近くには、もう一つの調査対象である『ネメシス』がある。

残りの調査対象のダンジョンには、『サンクチュアリの天空牢』のようにプロトタイプ版のみ存在するダンジョンはない。

だが、『レギオン』と『カーラ』は、いつ介入してくるのかは分からない。

何事にも、用心に越したことはないだろう。


「よし、みんな、行くぞ!」

「ああ」

「うん」


有の呼び掛けを合図に、望達はそれぞれの武器を手に、果敢にダンジョン調査へと挑んだ。

『這い寄る水晶帝』のクエスト内容は、そのダンジョンで召喚できる使い魔を、ダンジョン内で成長させるという少し変わり種のものだ。

だが、今回はあくまでもダンジョンの外観調査と『アメジスト』の素材の入手だけだ。

出現するモンスターは同じ種類のモンスターであり、ダンジョン内も基本、ペンギン男爵が作成したマップ通りに進んでいけば、奥までたどり着くことができるだろう。

つつがなく、望達はダンジョンの奥へと歩を進めていった。

ダンジョン内部は細い通路が緩やかに延びており、両脇の燭台が周囲を薄く照らしている。


「ふむ。この先に現れるモンスターが『アメジスト』の素材を持っているのか。基本的に迷うことはなさそうだな」


有はインターフェースを使い、目の前に表示されているダンジョンマップに沿って歩いていく。

マップ通りなら、先には『アメジスト』の素材を持っているモンスターが現れるフロアがある。

周囲に視線を巡らせていた花音は、興味津々の様子で勇太のもとを訪れると甘く涼やかな声で訊いた。


「勇太くんとリノアちゃんって、幼なじみだったんだよね。いつ頃、知り合ったの?」

「小学校に入る頃だな」

「じゃあ、かなり長い付き合いなんだねー」


勇太の答えに、花音はあまり冗談には思えない顔で言って控えめに笑う。

そこで、勇太が核心に迫る疑問を口にした。


「望達は、中学に上がった頃に知り合ったんだよな。ゲーム内で出会ったのか?」

「……ああ、その通りだ。このゲームをきっかけにな」


勇太の驚愕に応えるように、有は物憂げな表情で腕を組んだ。


「俺は、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターである紘とその妹の愛梨とは、小学校に入る前に知り合ったんだよな」


勇太の問いかけに真剣な口調で答えて、徹はまっすぐダンジョン内を見つめる。


「その頃から、紘と愛梨とは仲が良かったんだ」

「……そう思っているのは、君だけではないのか?」


徹の発言に、奏良は納得できないように猜疑心を向けてくる。


「俺は愛梨としても生きているから、徹とも幼なじみのような感じがするな」

「私は愛梨としても生きているから、徹とも幼なじみのような感じがするね」

「そうだね」


望とリノアが咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は元気づけるように望を見上げた。

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