望達が告げた情報によって、この場にいる『レギオン』と『カーラ』の者達の動きが慌ただしくなっていく。
緊迫した状況の中、花音は不安を形にする。
「まだ、バレたりしないよね」
花音は途方に暮れたようにつぶやくと、先頭を歩く『レギオン』のギルドメンバーをじっと眺めた。
ロビーの床や壁は自らが発光しているかの如く白く、中央にはレッドカーペットが敷いてある。
中もまた、まるで城のようで、牢獄のダンジョンとは似ても似つかぬ内装だった。
「おい、おまえら!」
『レギオン』のギルドメンバーは足を止めると、毅然な態度で望達の方へと振り返る。
「この先の床に罠が仕掛けられているから、絶対に踏むなよ」
「無限回廊か」
徹はその罠の仕掛けが何なのか、察しがついていた。
ループする回廊。
ダンジョンではよくあるポピュラーな仕掛けで、気付かずに進んでいると、ずっと同じ場所を歩き続ける羽目になる。
実際に以前、花音がその床を踏んだことで、望達は元の場所に戻されていた。
「あと、ここから先はモンスターが出るが、自分達の身は自分達で守れよ」
「「はい」」
その言葉どおり、その都度、進路を妨害してくるモンスター達が現れたが、望達は連携して対処していく。
『サンクチュアリの天空牢』は毒気を抜かれるほどに、ただの壮麗な宮殿だった。
牢獄という雰囲気は微塵もない。
天井には燦然と輝く大小様々なシャンデリアが設えられ、壁際にはガーディアンを模した彫像が飾られている。
それは、空想の物語に迷い込んでしまったような錯覚を起こしてしまうような光景だった。
「まるで、絵本の中のお城に来たみたいだよ」
花音は感慨深げに周りを見渡しながら小声でつぶやいた。
「ねえ、奏良くんの風の魔術で、吉乃かなめさんに不意討ちとかできないかな?」
「……ふん」
花音が率直な疑問を述べると、奏良は不満そうに目を逸らした。
「それで何とかなるのなら苦労していない。吉乃かなめは相当な魔術のスキルの使い手だ。そもそも、不意討ちしようとした瞬間、光の魔術によって、ダンジョンの外に追い出されてしまうのがオチだ」
「もう、奏良くん。愛梨ちゃんのために頑張ろうよ」
「……花音。何故、そこで愛梨の名前を出すんだ?」
花音のどこか確かめるような物言いに、奏良は不快そうに顔を歪める。
「ここまでは予定どおりだ。このまま、吉乃かなめのもとに行くしかないな」
「徹様、電磁波の発信源の特定、お任せ下さい」
徹の方針に、プラネットは誇らしげに恭しく頭を下げる。
プラネットは『レギオン』と『カーラ』による電磁波の妨害がないかを探っていた。
以前、彼女が電磁波の発信源を特定したことで、望達は戦いの動線を阻まれずに済んだのだ。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!