愛梨の死をなかったことにするには、私の特殊スキルだけでは叶わなかった。
だが、蜜風望の魂分配(ソウル・シェア)のスキルを用いたことで、それを実現することができたーー。
高位ギルド『レギオン』と『カーラ』。
数多の悪逆を敷き、自らの目的のためなら無辜の人達の自由を奪っていた。
彼らが掲げる理想の世界を築くためにーー。
しかし、私もまた、愛梨を救うためにあらゆる手段を用いてきた。
私には『レギオン』と『カーラ』のやり方を否定する資格はないだろう。
だが、それでもーー。
「吉乃信也。私はこの力を用いて、今度こそ愛梨が幸せになれる未来を選んでいくだけだ」
「その感情、悲しいな。人は生きるうえで、あまりに苦痛が多すぎる」
紘の弁に、信也は憂いを帯びた声で目を伏せる。
「だから、一毅、君は美羅をこの仮想世界に残したのだろう? あらゆる世界の悲劇をなくすために。あらゆる過ちをなくすために」
過ちはあってはならない。
過ちとは罪であり、理想の世界では排除すべきものである。
信也は理不尽な紘の発言ーーそしてそれを生み出した世界全てを悲しむように哀憐(あいれん)を口にした。
そして、奏良の背後にいる愛梨のもとへと近づこうとする。
しかしーー
「そうはさせません!」
その時、イリスが紘達を援護するように上空から槍を振り下ろす。
初速でいえばニコットには劣るその速度、しかしイリスの攻撃の神髄は此処から始まる。
「……っ!」
その初撃を杖で受け止めた信也はすぐに異変に気付く。
(ーー想像以上に速いな)
イリスは槍を上下反転させると、すぐさま振り上げの第二撃を放つ。
信也がそれを受けると、すぐさま紘の猛攻に攻められる。
無数の甲高い衝突音と重い衝撃。
紘、そして上空を旋回するイリスの手は止まらない。
一瞬でいて、永遠のような交わり、その交錯は一向に止まらない。
紘達は緻密な連携と速度で四方八方から攻勢をかけ続けた。
対する信也は防戦一方になる。
「喰らえ!」
「くっ……」
そこに愛梨の特殊スキルが込められた奏良の放った弾丸の連射が加わり、信也は後退を余儀なくされた。
「素晴らしいな。だが、私を追い詰めても大勢は変わらない」
上空と地上の下地、望達とイリスの高度な連携が成す技が信也を追い詰めていく。
「私達の役目は世界に安寧をもたらすことだ。美羅、そうだろう」
杖を構えた信也は自らの矜持を持って運命の天秤を傾けていく。
その瞳の奥に在るのは問いではなく、確信だった。
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