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留菜マナ
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第九十五話 黄昏の塔と孤高の勇者①

公開日時: 2020年12月22日(火) 16:30
文字数:2,030

朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム。

塔の最上階に潜んでいるボスを討伐するという、代わり映えのしないスタンダードなものだ。

だが、期間限定であり、報酬もすごいことから、とんでもないボスが待ち構えていることが示唆される。

そして、空に浮かぶ雲の上に建造された無骨な塔のため、何かしらの方法で飛翔していく必要があった。

そんな中、居ても立ってもいられなくなったのか、花音が攻撃する際の身振り手振りを加えながら飛び跳ねた。


「プラネットちゃん、今回のボスって、どんなモンスターなのかな? どんな相手でも、私の天賦のスキルで倒してみせるよ!」

「花音。そのクエストの攻略情報は非公開になっている。ただひたすら、ボスを翻弄してくれ」


花音が自信満々で告げると、奏良は呆れたように有に目配りする。

有はそれに応えるように、インターフェースを操作して、朽ち果てた黄昏の塔、パラディアムの攻略情報を表示させようとした。

しかしーー


『表示できませんでした』


有が何度、操作しても、エラー表示が出て、情報を見ることができない。


「妹よ。残念だが、奏良の言うとおり、このクエストの攻略情報は全て非公開のようだぞ」

「……そ、そうなんだね」


自身のアイデンティティーを否定されて、花音は落胆した。


「攻略情報か。なら、ボスはもう討伐されてしまっているのか?」

「ああ。既に複数のプレイヤーとギルドが討伐しているようだな」

「ーーっ」


有から、暗に攻略された後のクエストだと言われて、望は悔しそうに言葉を呑み込む。


「だが、情報が非公開になっている上に、ボスを討伐した時に得られる報酬も破格のポイントだ」

「そうなんだな」


奏良の捕捉に、望は緊張した面持ちで告げた。

攻略情報が非公開になっているクエストは、難易度がそれなりに高い。

それゆえ、初心者ではなく、上級者を求める。

また、目を見張るような報酬も相まって、討伐対象であるモンスターは相当、手強い存在なのだろう。


「母さん。このクエストの詳しい情報を知りたい」

「恐らく、難易度の高いクエストだろうね」


有の要望に、有の母親は可視化したそのクエストの名に触れる。

その瞬間、望達の目の前には、目的のクエストの詳細が明示された。


『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアムにて、凶悪モンスターを討伐せよ』


・成功条件

 ボスの討伐

・目的地

 朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム

・受注条件

 上位ギルド以上の登録

 または、上級者プレイヤー同士の登録、熟練のソロプレイヤー

・報酬

 ニ千万ポイント

・注意事項

 クエストの受注は、一度きりのものになります。

 成否関わらず、二度目の挑戦は受け付けておりません。

 また、クエストの提示は、今日までになります。


「ニ千万ポイント!」

「転送石が買えるポイントだよ!」


目を見張るような報酬を見て、望と花音は驚愕する。


「ギルドに所属したプレイヤー達、上級者プレイヤー同士、そして、ソロプレイヤーでも受注可能か」

「ああ。ソロプレイヤーの中には伝説の武器、または、それに近いレア装備を持つ者達がいる。膨大な報酬、そして上位ギルド以上を指定していることから恐らく、このクエストを受けているソロプレイヤー達はかなりの手練れなのだろう」


奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。


「でも、お兄ちゃん。カリリア遺跡の時は、個別プレイヤー同士の受注は受け付けていなかったよ」

「その通りだ、妹よ。カリリア遺跡の時は、公式リニューアル当日の時間限定クエストだったからな。基本的に、ギルドのみに制限したのだろう」


花音が声高に疑問を口にすると、有は意味ありげに表情を緩ませた。


「妹よ。今回は、熟練のソロプレイヤーと遭遇することができるかもしれないぞ」

「わーい! お兄ちゃん、すごいね!」


有の予想外な発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げる。


「しかし、期間は今日までか。急ぐ必要があるな」

「有様。今回のクエストは、他のプレイヤーと遭遇して戦闘になる可能性が高いのではないでしょうか?」


有の言葉に反応して、プラネットがとらえどころのない空気を固形化させる疑問を口にした。


「プラネットよ、恐らく、そうだろう。ボスモンスターの討伐以外にも、他のプレイヤー達の動きを視野に入れる必要があるな」


プレイヤー同士の闘いを想起させるような状況に、有は切羽詰まったような声で告げる。


クエスト公開最終日ーー。


もしかしたら、複数のプレイヤー、ギルドで挑む『レイドボス戦』もあり得るかもしれない。


「よし、望、奏良、プラネット、妹よ。このクエストを受注した後、すぐに『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』に向かうぞ!」

「ああ」

「うん」

「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。クエストの確認は、前もってしてほしかった。今日一日で、クエストを攻略するのは無理難題だ」


有の方針に、望と花音が頷き、奏良は渋い顔で仕方なく承諾する。

目的地が定まった望達は、朽ち果てた黄昏の塔、パラディアムに赴くために、クエストを受注すると即座にギルドを後にしたのだった。

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