「光龍、目障りな!」
立ち塞がった光龍を前に、『カーラ』のギルドメンバー達が不愉快な顔を浮かべて警戒した。
「よし、行け!」
光龍と骨竜が相対する中、徹は光龍を使役する。
徹が行使する光龍は、身体を捻らせて骨竜へと迫った。
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
虚を突かれたせいなのか、骨竜は体勢を立て直すこともできずにまともにその一撃を喰らう。
だが、もう一体の骨竜が不意を突いてきたことで、光龍は吹き飛ばされた。
「徹様!」
イリスはすかさず徹の加勢に向かう。
躍動する闇と槍の光が入り乱れる戦場を、イリスは凄まじい速度で上空から駆ける。
彼女の繰り出す斬撃は早く鋭く、光龍を吹き飛ばした骨竜を切り裂いていく。
「『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドマスターである椎音紘と『アルティメット・ハーヴェスト』が誇るNPCを一人で相手取るのはさすがに苦しいな」
「その割には随分と余裕ですね」
信也の言葉に呼応するように、気迫の篭ったイリスの声が響き渡る。
「私達は開発者側だからな。ゲーム内の君達の動きはある程度、把握している」
「……その余裕、必ず失わせてみせます」
信也の戯れ言に、槍を振りかざしたイリスは不満そうに表情を歪める。
そこで、信也は対峙している紘に視線を戻した。
「その感情、悲しいな。人は生きるうえで、あまりに苦痛が多すぎる。それは仮想世界に存在するNPCにもいえる」
イリスの弁に、信也は憂いを帯びた声で目を伏せる。
「だから、一毅、君は美羅をこの仮想世界に残したのだろう? あらゆる世界の悲劇をなくすために」
信也は理不尽な世界全てを悲しむように哀憐(あいれん)を口にする。
高位ギルド『レギオン』と『カーラ』。
数多の悪逆を敷き、自らの目的のためなら無辜の人達の自由を奪っていた。
彼らが掲げる理想の世界を築くためにーー。
『一毅の念願を果たすのはこれからだ』
無人の研究所ーーかっての思い出の場所に赴いた際、賢が発した確固たる信念。
信也は目を凝らして、陣形が組まれた街道を眺めた。
「一進一退の繰り返しか。さすがに『アルティメット・ハーヴェスト』の本拠地を攻めるのは容易ではないな」
数の有利不利など凌駕する勢いで『アルティメット・ハーヴェスト』は攻め立てる。
しかし、信也の『明晰夢』の力が封じられているとはいえ、『レギオン』と『カーラ』の連合軍の防衛網を打ち破るのは一筋縄ではいかない。
それが分かっているからこそ、信也は予測していたように作業じみたため息を吐いた。
「さて、蜜風望くん達はこの状況をどう覆すのか」
そこで信也は戦況を見据えている望達に気づいた。
今のところ、望達には目立った動きはない。
だが、まるで勘案するかのように信也を見据えている。
「動きが封じられているはずなのに、彼は何かを仕出かしそうな予感がする。この戦いの不穏分子は蜜風望くんかもしれないな」
この場を離脱することを狙っているのか――それとも『信也に内在する懸念』を顕在化させようとしているのか。
それは未だ分からないが、信也は紘達だけではなく、望達の動向も警戒しておかねばならないとため息を吐いていた。
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