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留菜マナ
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第三百八十三話 戦渦で舞う②

公開日時: 2023年3月3日(金) 16:30
文字数:1,166

さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。


「私、望くんとリノアちゃんを信じている」


着地した花音は胸のつかえが取れたように宣言した。

そして、朝の光のような微笑みを望達に向けた。


信じているーー。


その言葉には何の根拠もなく、何かの保証には決してなり得ないことを知りながらも……。

花音が口にすると、まるでそれは既に約束された未来の出来事のように感じられた。

望の中で漲る力が全身を駆け巡る。


何物にも代えがたい花音の笑顔。

その笑顔を護りたいと望は切に願う。


『……みんなの力になりたい』


不意に愛梨の声が聞こえた。

それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の想い。


「ああ、そうだな。俺はーーいや、俺達は諦めない!」

「うん、そうだね。私はーーいや、私達は諦めない!」


望とリノアは胸に灯った炎を大きく吹き上がらせる。

その瞬間、二人の剣からまばゆい光が収束する。

二人の剣からはかってないほどの力が溢れていた。


「「はあっ!」」


望とリノアはその一刀に全てを託し、信也に向かって剣を振り下ろす。


「くっ……」


信也が辛うじてその一撃を躱す。

しかし、その威力は凄まじく、間近にいた信也だけではなく、『レギオン』のギルドメンバー達をも一挙に吹き飛ばした。

望とリノアはそのまま、二打三打と連続して攻撃を繰り出す。

攻撃時は攻撃に集中し、意識をより先鋭化する。


「特殊スキル、厄介だな。なら、久遠リノアを転移させて君の動きを封じようか」


望とリノアが駆け出し、信也目掛けて疾走したーーその瞬間だった。


「そうはさせません!」


さらにイリスが望とリノアを援護するように上空から槍を振り下ろす。

初速でいえばニコットには劣るその速度、しかしイリスの攻撃の神髄は此処から始まる。


「……っ!」


 その初撃を杖で受け止めた信也はすぐに異変に気付く。


(ーー想像以上に速いな)


イリスは槍を上下反転させると、すぐさま振り上げの第二撃を放つ。

信也がそれを受けると、すぐさま望とリノアの剣戟に攻められる。

無数の甲高い衝突音と重い衝撃。

望とリノア、そして上空を旋回するイリスの手は止まらない。

一瞬でいて、永遠のような交わり、その交錯は一向に止まらない。

望達は緻密な連携と速度で、四方八方から攻勢をかけ続けた。

対する信也は防戦一方になる。

そこに紘の猛攻が加わり、信也は後退を余儀なくされた。

「素晴らしいな。だが、局所戦を覆しても大勢は変わらない」


上空と地上の下地、望達とイリスの高度な連携が成す技が信也を追い詰めていく。


「美羅、頼む。この状況を変えるには君の明晰夢の力が必要だ」


信也は自らの矜持を持って運命の天秤を傾けていく。

紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』。

それに対抗するように、信也は秘めた力を発揮した。

苛烈な赫。麗しい美羅から授かりし浄化の色ーー『明晰夢』の力を励起していく。

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