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留菜マナ
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第九十六話 黄昏の塔と孤高の勇者②

公開日時: 2020年12月23日(水) 16:30
文字数:1,801

「よし、望、奏良、プラネット、妹よ、行くぞ! まずは王都『アルティス』へ!」

「ああ」

「うん!」


有の決意表明に、望と花音が嬉しそうに言う。

望達が転送アイテムを掲げた有の傍に立つと、地面にうっすらと円の模様が刻まれる。

望達が気づいた時には視界が切り替わり、王都、『アルティス』の城下町の門前にいた。

『転送アイテム』は一度だけだが、街などへの移動を可能するアイテムだ。

ただし、ダンジョンなどは一度、訪れてからではないと行くことはできない。


「『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドがあり、なおかつ監視がついているこの状況で、『レギオン』と『カーラ』の襲撃がある可能性は低い。ここで準備を整えて、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』に赴くぞ!」

「まあ、ここからなら、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』まで飛んでいけるからな」


探りを入れるような有の言葉に、奏良は何故、王都『アルティス』から目的地に向かうのか、事情を察知した。

望達は早速、王都『アルティス』の中央通りに立ち並ぶ店を回り、必要なものを揃えていく。


「状態異常の回復アイテムに、モンスター避けのお香、それに飛行アイテムを購入しないとな」

「飛行アイテム、綺麗だね」


煉瓦造りの様々な店を前にして、望と花音は興味津々な様子で渡り歩いていった。


「ねえ、奏良くんの風の魔術で飛んでいったら、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』まで行けないかな?」

「……ふん」


花音が率直な疑問を述べると、奏良は不満そうに目を逸らした。


「それで何とかなるのなら、苦労していない。『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』に向かうのに、僕の魔術で固まって飛翔していくのは愚策だろう。空を飛ぶモンスターに迎撃されては元も子もない」

「もう、奏良くん! 愛梨ちゃんのために、クエスト攻略、頑張ろうよ!」

「……花音。何故、そこで愛梨の名前を出すんだ?」


花音のどこか確かめるような物言いに、奏良は不快そうに顔を歪める。


「マスター。この周辺では、電磁波の発生は感じられません」


望達が準備を整えている間、プラネットは目を閉じて、『レギオン』と『カーラ』による電磁波の妨害がないかを探っていた。


「そうなんだな。最上階まで何事もなく、たどり着けるといいんだけどな」


インターフェースで表示した時刻を確認しながら、望は顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。


「空には、数多くの浮き島が点在しているようだな。その中には、小型のダンジョンも複数あるだろう」


有は準備を終えると、空を見上げて塔までの方角を見定めた。


「プラネットよ、頼む」

「有様、『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の位置特定、お任せ下さい」


有の指示に、プラネットは誇らしげに恭しく頭を下げる。


「……っ! 有様、塔はここから南に降下しています」


プラネットが『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の位置を探っていると、奇妙な違和感に気がついた。

塔の座標が、点々と動いているのだ。

雲の上にあるため、それもあり得ることなのだが、その塔が降下していることに疑問を抱いたのだ。


「今日は、クエスト公開最終日。いつもとは状況が違うのかもしれないな」


プラネットの説明を聞いて、有は悩むように首を傾げる。


「よし、望、奏良、プラネット、妹よ、行くぞ! 『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』へ!」

「ああ」

「うん!」


有の号令の下、望達は効果を確かめるように飛行アイテムを掲げた。

すると、飛行アイテムが光り、浮力が働いたかのように、望達の身体を上昇させていく。


「このまま、塔に向かうぞ!」

「空を飛ぶのってすごいねー!」


有と花音が大きく身体を動かすと、突き抜けるように空へと駆け上がった。

有達を追って、望達もまた空へと跳躍する。

高積雲を突き抜けると、どこまでも果てがないような青空が、望達の視界一面に広がった。

周辺には、数多くの浮き島が点在しており、そこには複数のダンジョンの姿が見受けられる。

その中に、明らかに異彩を放っている建造物があった。

機能美など全くない灰色の塔。

外敵を拒むように塔の前で待ち構えている、無骨なガーゴイル達。

威風堂々たる朽ち果てた塔が、そこにはあった。


「マスター、モンスターがこちらに向かってきます!」

「俺達が来たことに気づいて、迎撃に赴いたんだな」


プラネットの忠告に、望達は一斉に戦闘態勢に入る。

塔の周りにいたガーゴイルが、何百もの大群をなして、望達に向かってきた。

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