賢による蹂躙とも呼べる絶対的強者の振る舞い。
互角だった剣戟は、ことごとく賢に弾き返される。
「絶対にリノアを救ってみせる!」
「彼女の知り合いなのか?」
「私の知り合いなの?」
圧倒されながらも立ち向かっていく、勇太の強い気概。
その理由を慎重に見定めて、望とリノアはつぶやいた。
「このまま、見過ごせない。だけど、俺が攻撃をすれば、彼女の座標を変えられてしまうだろうな」
「このまま、見過ごせない。だけど、私が攻撃をすれば、私の座標を変えられてしまう」
望とリノアは戦局を見据えながら、漠然と消しようもない不安を感じていた。
「柏原勇太は、私が相手をしよう。君達は、蜜風望達を頼む」
「はっ」
賢の指示に、『レギオン』のギルドメンバー達は丁重に一礼する。
その言葉を合図に、『レギオン』のギルドメンバー達はそれぞれの武器を構えた望達と対峙した。
このまま、ここで戦うのはまずいなーー。
徹の頭の中で警鐘が鳴る。
様子を窺っていた徹は、改めて周囲を見渡した。
『レギオン』のギルドメンバーの魔術のスキルの使い手達は、今も転送アイテムなどを使用不可能にする魔術を練り上げている。
『何とかして、転送アイテムを使えるようにしないといけないな』
徹は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いを滲ませる。
『まずは、魔術のスキルの使い手達を止める』
徹は気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達とコンタクトを取り始めた。
何十回目かの長い斬り合いは、賢が繰り出した斬撃によって勇太が大きく吹き飛ばされたことで中断される。
既に、勇太のHPがわずかにも関わらず、賢はまだ、ほとんど減っていない。
しかし、勇太は起死回生の気合を込めて、賢に天賦のスキルの技を発動させる。
『フェイタル・ドライブ!』
勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。
万雷にも似た轟音が響き渡る。
「ーーっ」
迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。
賢のHPが一気に減少する。
頭に浮かぶ青色のゲージは、半分まで減少していた。
「『星詠みの剣』!」
賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。
その瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。
「なっ!」
予想もしていなかった現象に、勇太は虚を突かれたように呆然とする。
「『星詠みの剣』の光の魔術の付与効果。それは『完全回復』だ」
「完全回復……」
驚愕する勇太を尻目に、賢は一呼吸置いてから付け加えた。
「つまり、君が私を倒すためには、一撃必殺の攻撃を放って、私を戦闘不能にするしかなかったということだ」
「一撃……」
賢の表情を見て、勇太は察してしまった。
一撃必殺を決めるためには、圧倒的な強さが必要になる。
しかし、今の勇太には、そのような力はない。
「『星詠みの剣』って、確か……」
「……ああ。君の想像どおりだ」
賢の表情を見て、勇太は最悪の予想を確信に変える。
「伝説の武器、か」
勇太の言葉に、賢は表情の端々に自信に満ちた笑みをほとばしらせた。
それが答えだった。
「こんなことして、運営と警察が黙っていないぞ!」
勇太は冷めた視線を突き刺すと、そのまま容赦なく追及する。
「こんな狂っている計画、運営と警察がすぐに暴いてくれるからな!」
「私達にとっては、これが理想の答えだ。美羅様が真なる覚醒を果たした今、もはやアカウントを強制的に削除され、警察に捕まることになっても問題ない」
思いの丈をぶつられた賢は、その全てを正面から受け止めた上で、あくまでも笑顔を崩さない。
「それに、私達がこの世界からいなくなれば、久遠リノアは一生、元に戻ることはない」
「ーーっ!?」
賢が口にした決定的な事実に、勇太は大きく目を見開いた。
「そして、私達が捕まれば、『創世のアクリア』は今度こそ、サービスを完全に停止する」
「「ーーっ」」
あまりにも衝撃的な事実を突きつけられて、望達は二の句を告げなくなってしまっていた。
『創世のアクリア』が完全に停止してしまえば、特殊スキルの効果を得られなくなった愛梨は再び、死亡することになる。
特殊スキルという絶対的なアドバンテージを前にして、俺達がこれからどう動くのかを見極めようとしているのだろう。
「私は、美羅様と同化した彼女(リノア)が、現実世界ではどうなるのか知りたい」
賢は恍惚とした表情で空を見上げながら、己の夢を物語る。
「たとえ、『創世のアクリア』という世界がなくなろうとも、美羅様はーーそして『レギオン』は消えることはない。美羅様がいる限り、私達の理想はいずれ叶うのだからな」
「なっ……」
常軌を逸した発言を聞いて、勇太は悲しみと喪失感に打ちひしがれた。
『レギオン』を止めれば、リノアを助けられる。
そんな勇太の希望は絶望に反転し、淡い期待は水の泡と化した。
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