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留菜マナ
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第ニ百十三話 心燿のロンド①

公開日時: 2021年4月18日(日) 16:30
文字数:1,461

「今だ!」


戦局全体を見極めていた奏良は、銃を構えると範囲射撃をおこなう。


「ーーっ」


不意を突いた連続射撃は、集中が途切れていた『カーラ』のギルドメンバー達を怯ませる。


「よし、今のうちに突破するぞ!」


それは絶好の好機だった。

有は『元素還元』で地面に亀裂を作りながら、混乱する『カーラ』のギルドメンバー達の只中を駆け抜ける。


「プラネットちゃん、行くよ!」

「はい」


花音とプラネットは並走して、苛烈な連携攻撃を『カーラ』のギルドメンバー達に加えていった。


「これは……」

「「ーーよしっ!」」


一方、かなめの表情は、予想外の展開を前にして悲哀を帯びていた。

逆に、目の前で巻き起こる想定どおりの結果に、望とリノアは有達の後を追って牢獄の奥へと向かう。


「この状況なら、愛梨に変わると思っていたみたいだな」

「そうですね。そう思っていたのは、私の不手際です」


すれ違いに進んでいく徹の訴えに、かなめはあっさりと自分の非を認めた。

勝負の趨勢が見え始めていた頃、傍観していた信也は単なる事実の記載を読み上げるかのような、低く冷たい声で宣告する。


「だが、逃げ切れると思ってはいないはずだ」

「ああ」

「うん」


立ち塞がってきた信也を前にして、剣を構えた望とリノアは同意を示した。


「なら、俺達がリノア達の道を切り開くだけだ!」

「「勇太くん」」


勇太の決意に、望とリノアは躊躇うように応える。


「今度こそ、絶対にリノアを救ってみせる!」


勇太は両手で大剣を構えると、信也と向き合った。

勇太が今、対峙するべきは、迫る眼前の脅威だ。

そして、『カーラ』への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。


「行くぜ!」


断定する形で結んだ勇太は、信也に向かって駆けていった。






「なかなか減らないな」


迫り来るベヒーモスの群れを何とか捌きながら、徹は望達が進むための道を切り開いていた。

倒しても倒しても、モンスター達は再生し、または四方八方から現れ、次々に襲い掛かってくる。

それらを打ち倒している途中で、イリスから連絡が入った。


『徹様。吉乃信也の目的は、やはり愛梨様との入れ替わりのようです』

「分かった。しばらくの間、外の敵の足止めを頼むな」

『了解しました』


徹は通信を切り、神妙な面持ちで望達を眺めた。

躍動する闇と剣の光が入り乱れる戦場を、望とリノアは凄まじい速度で駆ける。

彼らの繰り出す斬撃は早く鋭く、光龍を振り切ったモンスター達をいとも容易く切り裂いていく。


「特殊スキルの使い手。さすがに手強いな」

「マスターとリノア様には手出しはさせません!」


信也の言葉に呼応するように、気迫の篭ったプラネットの声が響き、行く手を遮るモンスター達が次々と爆ぜていった。


「行くぜ!」


そのタイミングで、勇太は起死回生の気合を込めて、信也に天賦のスキルの技を発動させる。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように信也へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーっ!」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、信也は怯んだ。

信也のHPが減少する。


「「花音!」」


声に呼応するように、望達をブラインドして近づいていた花音が信也達にとっては死角から現れた。


「行くよ!」


花音の振るった鞭先が、意識を望達に集中していた信也に叩きつけられる。


「くーーっ」


咄嗟の判断で回避行動を取った信也は、直後にそれが取り返しのつかないミスであったことに気づいた。


「まーー」

「待つわけないだろう!」


勇太はそう言い捨てると、信也が避けたことで開いたスペースを望達共々、突っ切っていった。

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