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留菜マナ
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第三百八十六話 戦渦で舞う⑤

公開日時: 2023年3月24日(金) 16:30
文字数:1,310

特殊スキル。

世界を牛耳る力と謳われ、現実世界をも干渉する力。

そして、全ての世界そのものを改変させることすら可能な、万能の力。


有は紘が語っていた特殊スキルの内容を呼び起こす。


『美羅の器であるリノアは、『レギオン』と『カーラ』の者達にとって決して失うことができないカードだ。リノアが意識を失えば、一時的とは美羅の力は発動しない』


紘の淡々と語った内容、しかし有達には額面以上の重みがあった。


吉乃信也を捕らえる前に、まずはリノアの意識を失わせる。


有は改めて、その意味を脳内で咀嚼する。


美羅が求めているものは特殊スキルの使い手。

『レギオン』と『カーラ』の者達も同様に求めているものは望達、特殊スキルの使い手の力だ。

『レギオン』と『カーラ』の目論見は、愛梨に特殊スキルの力を使わせることによって、美羅の真なる力の発動させることだった。

だが、もしリノアの意識を失わせることができたら、愛梨の特殊スキル、『仮想概念(アポカリウス)を使うことができるかもしれない。

しかし、望とリノアが波状攻撃を仕掛けても、リノアは信也の意思によって転移させられてしまう。

ならーー


「椎音紘よ、吉乃信也にリノアの意識を失わせるように仕向けてほしい」


有は意思を示すように直言する。

信也の攻撃をリノアに命中させる。

あくまでこれは超常の領域にある美羅の加護を受ける開発者達の一人を捕縛すること。

倒すを確約するものではなく、どれほどの情報を得ることができるかも未知数。

むしろ、信也は何らかの方法で口を割らない可能性もあった。

しかし、それでも開発者の一人を捕らえれば、賢達の動きに乱れが生じるはずだ。

だが、何とか信也の裏をかいて出し抜く方法を考えなくてはならない。

とはいえ、一つだけごく簡単に、しかも完全に信也の裏をかく案はある。

それはーー


「吉乃信也の『明晰夢』の力を発動させて、リノアの意識を失わせる……?」

「吉乃信也の『明晰夢』の力を発動させて、私の意識を失わせる……?」


有の案を聞いた望とリノアは改めて自分が為すべきことを触発された。

やがて、感情の消えた瞳とともに、紘はあくまでも自分に言い聞かせるように継げる。


「美羅は『レギオン』の者達が産み出した、愛梨と吉乃美羅のデータを合わせ持つ『救世の女神』ともいうべき存在だ。特殊スキルの使い手である蜜風望と愛梨にシンクロさせることによって、実際の人間ーー久遠リノアと同化させられるところまで進化を果たしている。この進化をこれ以上、進めさせるわけにはいかない」

「何とかして進化を止めないといけないな……」

「何とかして進化を止めないといけない……」


どうしようもなく不安を煽るそのフレーズに、望とリノアは焦りと焦燥感を抑えることができなかった。


「今の美羅は、人智を超えた成長を遂げる『究極のスキル』そのものであり、時には特殊スキルの使い手である私達の力を超えるほどの絶対的な力を持っている」

「少なくとも、このままじゃリノアの意識を失わせることはおろか、動くこともままならないな」

「少なくとも、このままじゃ私の意識を失わせることはおろか、動くこともままならないね」


その紘の言葉を聞いた瞬間、望とリノアは眸に困惑の色を堪えた。

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