「手嶋賢様。ニコットはこのまま、蜜風望達の妨害に徹します」
「「妨害……?」」
無邪気に嗤うニコットの発言を聞いて、望とリノアは嫌な予感がした。
しかし、望達の驚愕には気づかずに、ニコットは淡々と攻撃態勢へと移る。
「まずは、そのための妨害対象を速やかに排除します」
「それは、こちらの台詞です。彼らとともに今すぐ、ここから立ち去りなさい」
「ニコットはこのまま、指令を続行します」
ニコットの一方的な要求に、今まで応戦していたイリスは表情を歪めたくなるのを堪える。
そのタイミングで、賢は厳かな口調で言い放った。
「ニコット、彼女のことは任せた。私達は蜜風望達を捕らえる」
「手嶋賢様、了解しました」
賢の指示に、ニコットは素直に従う。
「まるで、私達など眼中にないような言い回しですね」
「この機会を逃すわけにはいかないからな」
状況説明を欲するイリスの言葉を受けて、賢は表情の端々に自信の満ちた笑みを迸らせた。
「さて、勇太くん、どうする?」
その時、曖昧だった思考に与えられる具体的な形。
戦局を見極めようとしていた勇太は、賢が意味深な笑みを浮かべているのを見て思わず、身構えた。
「かなめを放置して置くわけにはいかないこの状況。このまま、私と戦いながら、かなめを相手にするつもりかな?」
「ーーっ」
賢から予想外の選択を迫られた勇太は、苦悶の表情を浮かべる。
望達をこの状況から救いたい。
だが、やはり、こいつの襲来に備えながら、『カーラ』のギルドマスターと戦うのは俺一人じゃ厳しいかもしれない。
どうしたらーー
「行け!」
二律背反に苛まれていた勇太は、徹の声音を聞いて我に返った。
徹が呼び出した光龍は、身体を捻らせて賢のもとへと迫った。
「くっーー」
虚を突かれたせいなのか、賢は体勢を立て直すこともできずにまともにその一撃を喰らう。
「……なら、俺は、俺の出来ることを成し遂げるだけだ!」
徹の加勢を得た勇太は一呼吸置くと、かなめのもとへと向かっていく。
「……かなめ!」
「ここから先には行かせないからな!」
「悪いが、君では私は止められない」
賢はかなめのもとへと向かうが、徹が使役した光龍の猛攻を避けたことで一瞬、出遅れる。
勇太は起死回生の気合を込めて、かなめに天賦のスキルの技を発動させた。
『フェイタル・ドライブ!』
勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。
万雷にも似た轟音が響き渡る。
「ーーっ」
迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、かなめは怯んだ。
かなめのHPが一気に減少する。
頭に浮かぶ青色のゲージは、半分まで減少していた。
勇太は畳み掛けるように、かなめの間合いへと接近する。
「残念ですが、その攻撃は防がせてもらいます」
かなめは片手をかざすと、勇太の大剣を防ぐための光の魔術の防壁を生み出す。
「奏良くん、お願い!」
「言われるまでもない」
花音の呼びかけに、奏良は弾丸を素早くリロードし、かなめに照準を合わせた。
その直後、発砲音と弾着の爆発音が派手に響き渡ったが、それらをかなめは光の魔術の防壁を用いて防いでしまう。
「行きます!」
裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。
「はあっ!」
気迫の篭ったプラネットの声が響き渡った。
プラネットの猛攻により、かなめが張った光の魔術の防壁は爆せ、再び罅が入る。
かなめが新たに光の魔術の防壁を張る前にーー。
勇太が再度、接近戦へと持ち込もうとするが、そこに賢が立ち塞がった。
「まだだ! 光の魔術の防壁で防ぐというのなら、受け止める余裕を与えないくらい、何度でも叩き込んでやる!」
「なるほど。そういった理論もあるな」
幾度も繰り出される互いの剣戟。
超高速の攻防を繰り広げながら、賢は勇太の意気込みを感心する。
「余裕綽々で入られるのも今のうちだからな」
そこに光龍を使役した徹が参戦し、果敢に戦いへと身を投じて行った。
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