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留菜マナ
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第ニ百ニ十六話 久遠の鳥籠⑥

公開日時: 2021年5月2日(日) 16:30
文字数:1,605

按図索駿を発した花音に呆れの色を滲ませつつ、奏良は思考を重ねる。


花音に不意討ちが出来ないのなら、不意討ちが出来る環境を整えてやればいいだけの話かーー。


戦局全体を見極めていた奏良は、銃を構えると骨竜ではなく、『カーラ』のギルドメンバー達に対して範囲射撃をおこなう。


「ーーっ」


不意を突いた連続射撃は、骨竜を呼び出した『カーラ』のギルドメンバーも含めて、彼らを大いに怯ませる。


「喰らえ!」

「ーーっ!」


奏良が放った更なる銃弾の嵐が、『カーラ』のギルドメンバー達の動きを阻害した。


「「花音!」」


声に呼応するように、望達をブラインドして近づいていた花音が『カーラ』のギルドメンバー達にとっては死角から現れる。


「行くよ!」


花音の放った氷属性の飛礫アイテムが、意識を奏良に集中していた『カーラ』のギルドメンバー達へと叩きつけられた。


「くーーっ」


これに対して、『カーラ』のギルドメンバー達は攻撃を避けながらも、ロビーまでの道への防御を固める。


「よーし、さらに行くよ!」


その布陣を見た花音は、即座に判断した。

花音は裂帛の気合いと同時に、その周囲を固める『カーラ』のギルドメンバー達の元へと動く。

鞭を振るい、疾風の如き速さで距離を詰める。

花音は、ギルドメンバー達に反応させることさえ許さず、先制の一撃を叩き込むことに成功した。

一撃を叩き込むと即座に、囲まれないよう立ち回る。


「よし、今のうちに全て解除するぞ!」


それは絶好の好機だった。

有達はトラップを解除するため、混乱する『カーラ』のギルドメンバー達の只中を駆け抜ける。


「勇太くん、行くよ!」

「ああ、任せろ!」


花音と勇太は並走して、苛烈な連携攻撃を『カーラ』のギルドメンバー達に加えていった。


「行きます!」

「あの攻撃を、この状況で喰らうのはまずい! 一旦、下がれ!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を『カーラ』のギルドメンバー達に叩きつけようとした。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、ぎりぎりのところで回避した『カーラ』のギルドメンバー達は大きく後方に下がっていた。

だが、それでも『カーラ』のギルドメンバー達は前に進み出て、行く手を阻むように包囲を固める。


「切りがないな」

「切りがないね」


包囲を崩そうしても、すぐに強固な陣形を組まれてしまう。

望とリノアは剣を構え、活路を見出だすために周囲を見渡した。

しかし、望とリノアは召喚されたモンスター達に再生能力を付与させないためにも、かなめの目を誘導してしなくてはならない。

必然的に、信也と『カーラ』のギルドメンバー達の対策は花音達に任せることになる。

望とリノアが駆け出し、かなめに向かって一閃したーーその瞬間だった。


「「ーーっ」」


リノアの位置が移動し、望と対面するかたちへと変えられる。

望とリノアの鍔迫り合いは一瞬で終わり、高い音を響かせて離れた二人は、そこから驚異的な剣戟の応酬を見せた。

互いの剣技は、きっちり打ち消し合う一閃で処理される。

高度で複雑な剣閃の応酬。

だが、それはリノアの座標をずらされることで、かなめには届かない。


「「ーーっ!」」


このまま続けても埒が明かない状況に、望とリノアは咄嗟に急制動をかける。


「私達から逃げる必要はありません」


その時、凛とした声がロビー内に響き渡った。

前に進み出たかなめは、無感動に望を見つめる。


「あなた方が女神様とシンクロすることで、あまねく人々を楽園へと導くことができるのです。これからあなたがおこなう功績は、未来永劫、称えられるでしょう」


かなめは両手を広げて、静かな声音で告げた。


「さあ、蜜風望、そして椎音愛梨。女神様のために、その全てを捧げなさい。あなた方の意思は、未来永劫、女神様の意思へと引き継がれていくのですから」

「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」

「悪いけれど、私は協力するつもりはない」


かなめの戯れ言に、望とリノアは不満そうに表情を歪める。

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