「吉乃信也から部屋に入る方法を何とかして聞き出す方法か」
望はこちらを覗く信也の瞳に昏い影が落ちているのに気づいた。
それは何処か諦観のような、それでいて強い信仰を持つ者の瞳だろうか。
『助言だ。『創世のアクリア』のプロトタイプ版には、君達の知らない事実が隠されている。究極のスキルーー特殊スキルについてのこともな』
『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』で初めて遭遇した時、信也が口にしていた言葉。
機械都市『グランティア』に赴くことができれば、美羅を消滅させる方法の足掛かりを掴むことができるはずだ。
そして、究極のスキルーー特殊スキルについての手がかりになるものは『創世のアクリア』のプロトタイプ版の中にあるはずだ。
「せめて、部屋がある範囲を絞れたらいいんだけどな」
論理的であるのに、その根本が同じではない。
同じ言葉を介しているのに理解しえない相手。
厄介であると望は眉を寄せる。
「ダンジョンマップに表示された部屋を変化させたのはニコットが行った可能性が高いな」
ダンジョンマップが変化した事情を察して、徹は深刻な面持ちで告げた。
「ニコットちゃんっていろいろなことができるね」
「……何者なんだろうか」
花音が抱いた疑問に呼応するように、望は疑問だらけの脳内を整理する。
「ニコットか……」
奏良はメルサの森の出来事を呼び起こす。
「愛梨の特殊スキルが込められた弾丸に耐える存在。厄介だな」
明らかに常軌を逸した出来事。
あの時、奏良がニコットに対して放った弾丸には、自身の風の魔術の付与と愛梨の特殊スキルが込められていた。
それはメルサの森周辺を消滅させてしまうほどの脅威的な威力の弾丸だ。
だが、そのようなーーとてつもない威力の弾丸を何発も喰らっても、ニコットはぎりぎりのところで耐え切ってみせた。
ーーダンジョンマップを遠隔操作できることといい、ここまで手の込んだことをしてのけるのはやはり、ただの機械人形型のNPCではない。
特殊スキルの使い手とシンクロを行えることといい、もしかしたら特殊スキルの重要な秘密に関わっているのかもしれないな。
ニコットに接触すれば、特殊スキルについて何か分かるかもしれない。
特殊スキルの使い手とシンクロする機械人形型のNPC――それがニコットという少女だった。
彼女には何らかの特異な力がある。
その出自こそまだまだ不鮮明な部分もあるが、彼女の能力を把握すれば、特殊スキルの秘密に迫る可能性が引き上がる。
特殊スキルの力に関わる何かが起こると仮定すれば、そこだと思いながら。
機械都市『グランティア』に留まっているニコットに対して、奏良の瞳には複雑な感情が渦巻いていた。
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