その日、勇太達は約束どおり、五大都市の一つ、王都『アルティス』の冒険者ギルドへと赴いていた。
一昨日、望達から冒険者ギルドへ提示されてきたという、『シャングリ・ラの鍾乳洞』。
そのダンジョン情報をしらみつぶしに検索していたのだが、リノアを元に戻すきっかけになりそうなものは見当たらない。
「やっぱり、行ってみないと分からないか」
勇太は釈然としない態度のまま、視界に入ったクエスト内容を確認する。
「ここで、望達とともにクエストをこなしていけば、リノアを救うことができるはずだ」
勇太はギルド内を闊歩しては、リノアを元に戻す方法を探した。
しかし、何一つ手がかりになりそうなものは見つからない。
理想と現実の落差を、その度に一筋の希望で埋めねばならなくなる。
勇太の脳裏で、かってのリノアの声が反芻される。
『勇太くん』
大輪の向日葵のような、思わず目を奪われるリノアの笑顔。
幼い頃の勇太は、毎日が楽しくて仕方がなかった。日々、大好きな幼なじみの女の子と遊んで、家に帰れば優しい笑顔で家族が迎え入れてくれる。
そんな当たり前の幸せな日々。
だが、リノアが眠った状態になってしまったことで、そんな日々は失われてしまった。
仮想世界だけではなく、現実世界にまで影響を及ぼしてくる高位ギルド。
自分達には、手に余る事柄だ。
考えるだけで気が重くなってくる。
その様子を辛辣そうな表情で見守っていたリノアの両親は、改めて勇太に告げた。
「勇太くん、病院のことを教えてくれてありがとう」
「まさか、あの病院内に、『レギオン』と『カーラ』の関係者がいるなんて……」
「……ああ」
リノアの両親の言葉を聞きながら、勇太はリノアがこうなってしまった理由に固執する。
高位ギルド、『レギオン』。
リノアとリノアの両親が所属していたギルドであり、特殊スキルの使い手の一人を元にしたデータの集合体ーー美羅をギルドマスターとして讃えている危険なギルドだ。
美羅と同化したことで、リノアは現実世界に戻ってきても目を覚ますことはなく、眠り続けている。
現実世界で、リノアを隔離されている病院から連れ出すことは不可能だった。
病院内にいる『レギオン』と『カーラ』の関係者が、国の中枢を動かし、抑圧してきたからだ。
勇太達が知っている情報の漏洩。
あるいは、情報の伝達。
それは仮想世界、そして現実世界の裏側に潜む闇だった。
押し寄せる不安の中、勇太が確信したのは、このまま手をこまねいていては、もう二度と以前の彼女に会えなくなってしまうということだった。
その疑念を払拭するため、勇太は真剣な眼差しで尋ねる。
「なあ、おじさんとおばさんはどうする? 俺は『キャスケット』に入ろうと思っている」
勇太の言葉は、この上なくリノアの両親の意思を突き動かした。
「勇太くん。私達も、『キャスケット』に加入するつもりだ」
「リノアを助けたいの」
「おじさん、おばさん、ありがとうな」
リノアの両親の懇願に、勇太は嬉しそうに承諾した。
「世界がリノアを忘れても、俺達はリノアを忘れないからな!」
勇太がそう告げると、ギルドの入口が賑わい、新たな人々の到来を告げていた。
勇太は不意に、ギルドの入口へと視線を走らせる。
そこには、冒険者ギルドへ赴いた望達の姿があった。
「よし、行くぜ!」
「ああ」
「ええ」
勇太達は期待に表情を綻ばせながら、望達のもとへと駆け出していった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!