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留菜マナ
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第百八十四話 蝶のクレードル④

公開日時: 2021年3月21日(日) 16:30
文字数:1,402

「リノア……」


勇太はリノアと向き合うと、胸中で決意を固める。


「……あの、望。頼みたいことがあるんだ」

「「頼みたいこと……?」」


勇太の意外な言葉に、望とリノアは意向を探ってみた。

先程からの緊張感が、別の意味を持つ。

緊迫した静寂の中、まるで三人だけ時間が止まってしまったかのように視線が交錯する。


「リノアも、『キャスケット』に加入させてほしい」

「「……勇太くん」」


思いの丈をぶつけられた望とリノアは、その全てを正面から受け止める。


「ああ、よろしくな」

「うん、よろしくね」


望とリノアは吹っ切れたように、勇太の申し出を承諾した。


「リノアちゃん、よろしくね」


リノアの殊勝な発言に、花音はそっと語りかける。


「僕達のギルドも、人が増えてきたな」

「ギルドホームを改装したのは、功を奏したようだな」

「そうですね」


奏良の言葉に、有とプラネットは同意する。


「みんな、ありがとうな。いつか、絶対に、現実世界のリノアも救い出してみせるからな」

「ーーっ」


勇太はそう口にして、望が抱えていた悩みへの決断を静かに迫った。


病院内で眠っているリノアは無事だろうかーー。


その安否に、勇太の心臓が早鐘のように早くなる。

勇太は頭を振って不安を押し殺すと、改めて望に頼んだ。


「おじさんとおばさんにも、リノアを会わせてもらってもいいか」

「リノアの両親に……」

「私のお父さんとお母さんに」


勇太の訴えに、望とリノアは戸惑いながらもつぶやいた。


「今のリノアが、以前のリノアではないことは解っている。だけど、俺はーーいや、俺達は、リノアの声が聞きたい! リノアが笑う姿をみたいんだ!」


勇太は必死にそう言い放つ。

感情を爆発させた勇太の発言に、望とリノアは虚を突かれたように瞬いた。


「勇太くん……」

「リノア……」


リノアの両親は今も自責の念を抱きながら、今のリノアに話しかけられずにいる。

嗚咽さえこぼすリノアの両親の姿に、様子を窺っていた勇太は目頭が熱くなった。

どう声をかければいいのか思い悩む望をよそに、花音は咄嗟に疑問を投げかける。


「お兄ちゃん。リノアちゃんは、今も現実世界では『レギオン』と『カーラ』の手の内にあるんだよね」

「その通りだ、妹よ。残念だが、現実世界では、望と愛梨を『直接』、リノアに会わせるわけにはいかない」

「ーーっ」


有の断言に、勇太は苦悶の表情を浮かべた。


「五大都市の一つ、機械都市『グランティア』。リノアを救う方法を探すためとはいえ、『レギオン』のギルドホームに近づくのは危険だ。もちろん、現実世界でリノアが隔離されている病院から連れ出すのも困難を極めるだろう」

「リノア様が入院している病院内には、『レギオン』と『カーラ』の関係者がいます。勇太様達の力をお借りしても厳しいですね」


有の懸念に、プラネットは悲痛な表情を浮かべる。


「だが、吉乃信也の言葉どおりなら、『創世のアクリア』のプロトタイプ版には、俺達の知らない事実が隠されている。特殊スキルについてのことが分かれば、リノアを元に戻す手がかりがつかめるはずだ」

「リノアを元に戻せるのか……!」


探りを入れるような有の思惑を聞いて、勇太は先程の言葉の意味を理解した。

望達が使う特殊スキルの力の秘密を知った上で、リノアを元に戻す方法を探す。

筋は通っているし、理にも敵っている。

本来なら、すぐにでも、現実世界のリノアを退院させたかった。

だが、一時の感情で、リノア達を危険に晒すわけにはいかなかった。

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