『有。先程、愛梨が狙われた。何者なのかは分からないが、恐らくは『レギオン』、もしくは『カーラ』の関係者だ』
『奏良よ、恐らくはそうだろう』
その後、奏良は愛梨達と別れた後、自分の部屋でメッセージのやり取りをしていた。
文章を一行綴る度に、指を動かし、携帯端末に表示された返信メッセージを確認していく。
メッセージの相手は有だった。
『『レギオン』と『カーラ』の者達が暗躍する今、プライバシー制度はもはや機能しない。今すぐ廃止にするべきだと僕は思う』
『奏良よ、俺達の一任で廃止にすることはできないぞ』
奏良の必死の訴えに、有は呆れたようにため息を吐く。
それでも奏良はやりきれない思いを強く匂わせていた。
「これは……!」
その時、別のメッセージが届き、奏良は不意を突かれたように顔を硬直させる。
『有、悪いが、僕は愛梨を守らないといけない。今後の件は有達に全面的に任せよう。僕は今すぐ、愛梨の家に行って、今回の報酬のパンケーキを受け取らなくてはならない』
『奏良よ。本音がバレバレだぞ』
期待を膨らませたような奏良の声に応えるように、有はやれやれと呆れたように眉根を寄せた。
翌日、有の家に集まった望達は、携帯端末を操作して、『創世のアクリア』のプロトタイプ版へとログインする。
オリジナル版と同様に、目の前に広がる金色の麦畑や肌に纏わりつく風と気候も、まるで本物のように感じられた。
だが、有達のギルド『キャスケット』がある、湖畔の街、マスカットの街並みは閉散としていて人気は少ない。
唯一、見かけるのはNPCである店員の姿だけだった。
有の父親は休日出勤しているため、今日はログインしていない。
「お兄ちゃん。今日は『サンクチュアリの天空牢』に行けるのかな?」
「妹よ。残念だが、徹のーー『アルティメット・ハーヴェスト』の連絡待ちになる」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
「それに昨日、愛梨を捕らえようとしていた者達の捜索が難航しているようだからな」
「そうなんだね……」
有の説明に、花音は昨日、愛梨のもとに行けなかったことを悔やむ。
「奏良くん。愛梨ちゃん、大丈夫かな?」
「ああ、愛梨は大丈夫だと思う。椎音紘の特殊スキルによって護られているからな」
「そうだね」
奏良の確信に近い推察に、花音は穏やかな表情で胸を撫で下ろす。
「相変わらず、この街にいるプレイヤーが僕達だけというのはいささか複雑な心境だな」
「うん。私達、ギルドの貸し切りみたいだね」
奏良の懸念に、花音は人懐っこそうな笑みを浮かべて答える。
やがて、右手をかざした花音は爛々とした瞳で周囲を見渡し始めた。
「でも、奏良くん、プラネットちゃん。昨日、愛梨ちゃん達を尾行していたように、『レギオン』と『カーラ』の人達がまた何処かに隠れているかもしれないよ!」
「はい。以前は盲点を突かれてしまいましたが、必ず見つけてみせます!」
「花音、プラネット、ありがとうな」
両手を握りしめて語り合う花音とプラネットに熱い心意気を感じて、望は少し照れたように頬を撫でてみせた。
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