「くっ!」
望は先導しながら、目の前に迫ってくるガーゴイル達を屠っていった。
「やっぱり、数が多いと厄介だな」
望は標的を切り替え、剣を構え直す。
狙うべきは、敵の密集地点だったのだが、突撃しようとするとバランスを崩して空中を蛇行してしまう。
「……っ、難しいな」
なかなか空中戦に慣れず、望は悪戦苦闘していた。
「貫け、『エアリアル・アロー!』」
奏良が唱えると、無数の風の矢がガーゴイル達へと襲いかかる。
ガーゴイル達は地面に落下すると、羽を動かしながら消えていった。
「よし、行くよ!」
花音は身を翻しながら、鞭を振るい、周囲の空を飛ぶガーゴイル達を翻弄する。
状況の苛烈さから離脱しようとしたガーゴイル達を畳み掛けるように、杖を構えた有は一際強く鋼を蹴り上げた。
『元素還元!』
有は、ガーゴイル達を牽制するように杖を振り下ろす。
有の杖がガーゴイルに触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。
ガーゴイルの羽が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。
羽が消えたことで、支えを失ったガーゴイル達は次々と地面へと落下していく。
「ここから、先に行かせて頂きます!」
プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を迫ってきたガーゴイル達に叩きつけた。
それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。
煙が晴れると、ガーゴイル達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。
「はあっ!」
高く飛翔した望の剣が、ガーゴイルの顎に突き刺さった。
ガーゴイルは崩れ落ち、やがて消滅していく。
「切りがないな」
奏良は威嚇するように、ガーゴイル達に向けて、連続で発泡する。
風の弾がガーゴイル達の顔面に衝突し、大きくよろめかせた。
「よーし、一気に行くよ!」
花音は勢いのまま、鞭を振るい、ガーゴイル達へと接近した。
『クロス・レガシィア!』
今まさに奏良に襲いかかろうとしていたガーゴイル達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。
花音の鞭によって、宙釣りになったガーゴイル達は凄まじい勢いで地面へと叩き付けられた。
さらに追い打ちとばかりに、降り立った花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。
「本当に数が多いな」
望達はまるで競い合うように、群がるガーゴイルの集団を一刀の下にねじ伏せていった。
しかし、相手は何百もの大群だ。
全てを相手にしていては、クエストを達成することは不可能になってしまうだろう。
「望、奏良、プラネット、妹よ、このままでは、埒が明かない。塔に入るぞ!」
「ああ、分かった」
「うん」
有の指示に、望達は花音の後を追い、塔の入口へと降り立った。
「はあっ!」
望は剣を一閃すると、入口付近で待ち構えていたガーゴイル達が吹き飛ぶ。
その隙を突いて、望達は塔の入口を突破する。
『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の入口。
望達はガーゴイル達を振り切り、塔の奥へと向かうために走っていった。
塔の入口を護っていたガーゴイル達は、塔に入った望達を追ってはこなかった。
しかし、塔の中で待ち構えていたケルベロス達が、望達の存在に気づき、まるで呼び水のように集まってくる。
「わーい! 今度はケルベロス達の大群だよ!」
「それどころじゃない」
両手を広げて喜ぶ花音をよそに、望は必死に塔の奥へと進んでいった。
「ふむ。この塔は、かなり複雑だな。攻略情報がない状態で、決められた時間までにボスのいる最上階に向かうためには、やはりモンスター避けのお香は必須か」
ケルベロス達から追いかけられながらも、有はインターフェースを表示させて、塔のルートを探索していく。
「妹よ、頼む」
「うん」
花音がモンスター避けのお香を使うと、迫ってきていたモンスター達の一部が怯えたように立ち去っていった。
『モンスター避けのお香』は、弱いモンスターを避けることができるアイテムだ。
数に限りはあるが、今は出し惜しみをしている場合ではない。
前方に望と花音、有は真ん中、後方に奏良とプラネットという隊列で突き進んでいった。
『クロス・レガシィア!』
進路を妨害してきたキマイラ達に対して、花音がそのまま、天賦のスキルで間隙を穿つ。
瞬間の隙を突いた花音のスキルに、ターゲットとなったキマイラ達は完全に虚を突かれた。
花音の鞭によって、宙に舞ったキマイラ達は凄まじい勢いで地面へと叩き付けられる。
だが、それでも追いかけてくるモンスターの数は一向に減らない。
「お兄ちゃん、大盛況だよ!」
「うむ。上級者クエストは、さすがに高難易度だな。しかし、妹よ、転送石を手に入れるためには、通らなくてはならない道だ!」
有と花音が会話のキャッチボールをしている間も、モンスター達は血気盛んな様子で追いかけてくる。
望達による『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の攻略は、まだ始まったばかりだ。
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