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留菜マナ
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第九十七話 黄昏の塔と孤高の勇者③

公開日時: 2020年12月24日(木) 16:30
文字数:1,936

「くっ!」


望は先導しながら、目の前に迫ってくるガーゴイル達を屠っていった。


「やっぱり、数が多いと厄介だな」


望は標的を切り替え、剣を構え直す。

狙うべきは、敵の密集地点だったのだが、突撃しようとするとバランスを崩して空中を蛇行してしまう。


「……っ、難しいな」


なかなか空中戦に慣れず、望は悪戦苦闘していた。


「貫け、『エアリアル・アロー!』」


奏良が唱えると、無数の風の矢がガーゴイル達へと襲いかかる。

ガーゴイル達は地面に落下すると、羽を動かしながら消えていった。


「よし、行くよ!」


花音は身を翻しながら、鞭を振るい、周囲の空を飛ぶガーゴイル達を翻弄する。

状況の苛烈さから離脱しようとしたガーゴイル達を畳み掛けるように、杖を構えた有は一際強く鋼を蹴り上げた。


『元素還元!』


有は、ガーゴイル達を牽制するように杖を振り下ろす。

有の杖がガーゴイルに触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

ガーゴイルの羽が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。

羽が消えたことで、支えを失ったガーゴイル達は次々と地面へと落下していく。


「ここから、先に行かせて頂きます!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を迫ってきたガーゴイル達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、ガーゴイル達は全て、焼き尽くされたように消滅していった。


「はあっ!」


高く飛翔した望の剣が、ガーゴイルの顎に突き刺さった。

ガーゴイルは崩れ落ち、やがて消滅していく。


「切りがないな」


奏良は威嚇するように、ガーゴイル達に向けて、連続で発泡する。

風の弾がガーゴイル達の顔面に衝突し、大きくよろめかせた。


「よーし、一気に行くよ!」


花音は勢いのまま、鞭を振るい、ガーゴイル達へと接近した。


『クロス・レガシィア!』


今まさに奏良に襲いかかろうとしていたガーゴイル達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭によって、宙釣りになったガーゴイル達は凄まじい勢いで地面へと叩き付けられた。

さらに追い打ちとばかりに、降り立った花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。


「本当に数が多いな」


望達はまるで競い合うように、群がるガーゴイルの集団を一刀の下にねじ伏せていった。

しかし、相手は何百もの大群だ。

全てを相手にしていては、クエストを達成することは不可能になってしまうだろう。


「望、奏良、プラネット、妹よ、このままでは、埒が明かない。塔に入るぞ!」

「ああ、分かった」

「うん」


有の指示に、望達は花音の後を追い、塔の入口へと降り立った。


「はあっ!」


望は剣を一閃すると、入口付近で待ち構えていたガーゴイル達が吹き飛ぶ。

その隙を突いて、望達は塔の入口を突破する。


『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の入口。


望達はガーゴイル達を振り切り、塔の奥へと向かうために走っていった。

塔の入口を護っていたガーゴイル達は、塔に入った望達を追ってはこなかった。

しかし、塔の中で待ち構えていたケルベロス達が、望達の存在に気づき、まるで呼び水のように集まってくる。


「わーい! 今度はケルベロス達の大群だよ!」

「それどころじゃない」


両手を広げて喜ぶ花音をよそに、望は必死に塔の奥へと進んでいった。


「ふむ。この塔は、かなり複雑だな。攻略情報がない状態で、決められた時間までにボスのいる最上階に向かうためには、やはりモンスター避けのお香は必須か」


ケルベロス達から追いかけられながらも、有はインターフェースを表示させて、塔のルートを探索していく。


「妹よ、頼む」

「うん」


花音がモンスター避けのお香を使うと、迫ってきていたモンスター達の一部が怯えたように立ち去っていった。

『モンスター避けのお香』は、弱いモンスターを避けることができるアイテムだ。

数に限りはあるが、今は出し惜しみをしている場合ではない。

前方に望と花音、有は真ん中、後方に奏良とプラネットという隊列で突き進んでいった。


『クロス・レガシィア!』


進路を妨害してきたキマイラ達に対して、花音がそのまま、天賦のスキルで間隙を穿つ。

瞬間の隙を突いた花音のスキルに、ターゲットとなったキマイラ達は完全に虚を突かれた。

花音の鞭によって、宙に舞ったキマイラ達は凄まじい勢いで地面へと叩き付けられる。

だが、それでも追いかけてくるモンスターの数は一向に減らない。


「お兄ちゃん、大盛況だよ!」

「うむ。上級者クエストは、さすがに高難易度だな。しかし、妹よ、転送石を手に入れるためには、通らなくてはならない道だ!」


有と花音が会話のキャッチボールをしている間も、モンスター達は血気盛んな様子で追いかけてくる。

望達による『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』の攻略は、まだ始まったばかりだ。

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