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留菜マナ
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第三百六十話 静閑を裂く③

公開日時: 2022年9月23日(金) 16:30
文字数:1,351

「ーーっ。こうなったら、一気呵成に行くぞ!」


『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達の陣営。

その先陣を青き翼が駆け抜ける。

それは祝福の調べとなり、彼らの意識を同調せしめるもの。

しかし、美しく鳴く小鳥などではない。

狡猾な獣の翼。

『カーラ』のギルドメンバー達が新たに呼び出したモンスターは空を駆け上がり、戦場を駆ける一迅となる。

だが、上空を旋回していたモンスターは突如、その動きを止めた。


「なっ!」


予想外の事態に、『カーラ』のギルドメンバー達に混乱と動揺が波及する。

新たなモンスターの動きが阻害された理由ーーそれは事前にイリスが仕掛けていたトラップの効果によるものだった。


「上空のモンスターの動きが止まったのか?」

「上空のモンスターの動きが止まったの?」


望とリノアが持てる手段で戦局を打破している途中で、上空から攻撃を仕掛けていたイリスから連絡が入った。


『徹様、上空に仕掛けていましたトラップによって、旋回していたモンスターの動きを阻むことに成功しました。ただ、骨竜達の動きを止めるまでには至りませんでしたので、その際についてご連絡させて頂きました』

「分かった。このまま、索敵ーー周囲の危険の有無の確認を頼むな」

『了解しました』


徹は通信を切り、神妙な面持ちで骨竜達を眺める。

イリスは闇に紛れて、徹の情報を頼りに上空を駆け抜けていた。

意図的に薄い存在感を徹していた彼女は、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達と疎通して信也の居場所を特定している。

だが、信也達もまた、上空を旋回しているイリス達の動向に気づいていた。

いつでも交戦できる構えを取っている。


「『アルティメット・ハーヴェスト』が誇るNPC。彼女とは何かしらの縁があるな」


信也は余裕を見せるように笑みを浮かべ、相手の腹を探るように上空を仰ぎ見た。


「紘様と戦っている最中だというのに随分と余裕ですね」


信也の言葉に呼応するように、気迫の篭ったイリスの声が響き渡る。


「私達は開発者側だからな。ゲーム内のモンスターの動きは把握している」

「……そのようですね」


信也の戯れ言に、イリスは不満そうに表情を歪める。

そこで、信也は対峙している紘に視線を戻した。


「悲しいな。人は生きるうえで、あまりに苦痛が多すぎる」


信也は憂いを帯びた声で目を伏せる。


「だから、一毅、君は美羅をこの仮想世界に残したのだろう? 世界の悲劇をなくすために」


信也は理不尽な世界を悲しむように哀憐(あいれん)を口にする。

五人の関係を崩壊させた忌まわしき事故が、まるで昨日のことのように追憶された。


『何故、だ……』

『一毅、美羅、しっかりしろ!』

『そんな……』


あの日、賢達の慟哭にも似た叫び声が轟いた。

悲痛な声は、夜空に吸い込まれて消える。

彼らの死亡原因は、ワゴン車に乗って研究室へと赴いていた際、車同士の衝突事故に巻き込まれたことだった。

一毅と美羅が死んだ時の記憶は未だ、残酷なほど鮮明だ。

彼らの死にもっとも嘆き悲しんだのは、後に高位ギルド『レギオン』を創設した賢だった。


『カーラ』のギルドマスター、吉乃かなめ。

彼女の兄である吉乃信也。

そして、彼らの従兄弟であり、今は亡き、もう一組の兄妹、吉乃一毅、吉乃美羅。

彼らがプロトタイプ版を売り込んだことで、『創世のアクリア』の開発が始まった。

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