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留菜マナ
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第ニ百五十九話 氷水晶のレクイエム⑦

公開日時: 2021年6月4日(金) 16:30
文字数:1,182

「行きます!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を入口を塞ぐ使い魔達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

しかし、それは使い魔達の動きを止めただけで、倒すまでには至らない。


「お兄ちゃん、望くんとリノアちゃん、大丈夫だよね」

「ああ、妹よ、望とリノアなら大丈夫だ。俺達はここから脱出するための手立てを考えるぞ」


鞭を振るい続ける花音の問いかけに、有は記憶を辿るように思考を走らせた。

『レギオン』が召喚した使い魔達は少なくとも、望達が畏怖に値する敵ではあった。

躊躇していては危険だと即断させる力を秘めている。


「くっ……!」

「……っ!」


剣を構えた望とリノアは、一定の距離を保って賢と対峙していた。

高度で複雑な剣閃の応酬。

だが、それはリノアの座標をずらされることで、賢には届かない。


「リノア、任せろ!」


床を蹴った勇太は躊躇し、逡巡する望とリノアの横をすり抜ける。

起死回生の気合を込めて、賢に天賦のスキルの技を発動させた。


『フェイタル・ドライブ!』


勇太が大きく大剣を振りかぶり、光の刃が波動のように賢へと襲いかかった。

万雷にも似た轟音が響き渡る。


「ーーっ」


迷いのない一閃とともに、勇太の強烈な一撃を受けて、賢は怯んだ。

賢のHPが一気に減少する。

頭に浮かぶ青色のゲージは、半分まで減少していた。

勇太は畳み掛けるように、賢の間合いへと接近する。


「『星詠みの剣』!」


だが、賢が剣を掲げた瞬間、賢の周りに淡い光が纏う。

その瞬間、賢のHPゲージは、あっという間に半分から全快の青色に戻っていた。


「なっ!」


起死回生を込めた技を覆されて、勇太は虚を突かれたように呆然とする。

『星詠みの剣』の光の魔術の付与効果。

それは『完全回復』だった。


「完全回復か……」

「ああ」


驚愕する勇太を尻目に、賢は一呼吸置いてから付け加えた。


「つまり、君が私を倒すためには、一撃必殺の攻撃を放って、私を戦闘不能にするしかないということだ。だが、今の君にはその力はないはずだ」

「一撃……」


賢の表情を見て、勇太は察してしまった。

一撃必殺を決めるためには、圧倒的な強さが必要になる。

賢の指摘どおり、今の勇太には、そのような力はない。

たとえ、『サンクチュアリの天空牢』で新たに覚えた『フェイタル・トリニティ』を使っても、賢を一撃で倒すことは困難だろう。


『アーク・ライト!』

「……っ! おじさん!」


その時、後方に控えていたリノアの父親は光の魔術を使って、勇太の体力を回復させる。


『お願い、ジズ! 賢様の動きを止めて!』


それと同時にリノアの母親も、自身の召喚のスキルで小さな精霊を呼び出し、賢の動きを制限しようとした。

しかし、それはあっさりと弾き返されてしまう。


「せめて、リノアの移動を阻止出来ればいいんだけどな」


勇太は、自分が相対している賢の実力を改めて実感する。

一方の賢も望達を見ながら深呼吸した。

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