兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第ニ百五十六話 氷水晶のレクイエム④

公開日時: 2021年6月1日(火) 16:30
文字数:1,583

「奏良よ、頼む」

「言われるまでもない」


有の咄嗟の指示に、奏良は弾丸を素早くリロードし、銃を構えた。

発砲音と弾着の爆発音が派手に響き、花音に迫っていた『レギオン』のギルドメンバー達を怯ませる。


「マスターとリノア様を渡すわけにはいきません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を迫ってきた使い魔達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、召喚された使い魔達は焼き尽くされたように消滅していった。


『元素還元!』


有はその隙に再び、床に向かって杖を振り下ろす。

有の杖から、放射状の光が放たれる。

その光が、結晶の壁に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

壁が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。


「壁周辺の元素にも、『アメジスト』の素材になりそうなものは含まれていないようだな」


有は解析すると、残念そうに眩しく輝く杖の先端の宝玉を見ていた。

そんな有の切羽詰まった声は再度、ぶつかり合った望達と賢の剣戟に吸い込まれて消える。


「「くっ!」」


望とリノアが波状攻撃を放てば、賢は手にした剣で軽々と全ての連撃を受け止めた。

だが、望とリノアは負けじと攻撃をさらに繋いでいく。

それぞれの剣の特性を生かした攻撃。

そして、望と愛梨の特殊スキルが込められた流星のような斬撃。

しかし、望とリノアの緊密な連携を前にしても、賢は重厚な剣で軽々と対応しきった。


「「なっ!」」


鋭く声を飛ばした望とリノアの疑問に応えるように、賢は冷静に目を細めて告げる。


「君は『シャングリ・ラの鍾乳洞』で、かなめから聞いたはずだ。新たなダンジョンの構造は、私達の方で自由に変えることが出来ると」

「「ーーっ」」


その賢の言葉を聞いた瞬間、望とリノアは息を呑んだ。


「だから、オリジナル版にあるダンジョンの探索には手を加えることはないと思っていたはずだ」

「……『サンクチュアリの天空牢』の時のように、このダンジョンの構造も変えられるのか?」

「……『サンクチュアリの天空牢』の時のように、このダンジョンの構造も変えられるの?」

「そういうことだ」


望とリノアの驚愕に応えるように、賢が嗜虐的な笑みを浮かべた。


「しかし、複数のスキルで入念に強化すれば、特殊スキルが込められた剣の威力さえ耐えることができるとはな」

「強化された伝説の武器は、明晰夢の空間を切り裂いた、あの一閃さえも凌ぐことができるのか……」

「強化された伝説の武器は、明晰夢の空間を切り裂いた、あの一閃さえも凌ぐことができるの……」


今の状況を冷静に分析する賢をよそに、望とリノアは苦痛と不可解が入り交じった顔でつぶやいた。

望は改めて、複合スキルによる変革の恐ろしさを目の当たりにする。


アイテム生成のスキル。

それは、様々な道具を作り出す力で、錬金術に近いスキルとして用いられていた。


天賦のスキル。

それは、自身の武器が持つ特性を最大限に生かして、技を放つスキルだ。


この二つのスキルが複合したことによって得た恩恵は、望とリノア、二人の特殊スキルの力が込められた武器にも対抗することができるという想像を絶する結果として導かれた。


「そうかもしれないな」

「ーーくっ」

「ーーっ」


完膚なきまで叩き潰すために迎撃態勢に入った賢の斬撃に、望とリノアは次第にHPを減らしていく。


「蜜風望。君がこの状況を覆るためには、特殊スキルの力をさらに高めるしかない。もしくは椎音愛梨の特殊スキル、仮想概念(アポカリウス)を使うしかないのではないかな」


賢の平坦な声に、望は何も答えられない。

望の頭の中では、ずっと同じ問いが空転していた。


ーーどうすればいい?

ーーどうすれば、この状況を覆すことができるんだ?


「望、惑わされるなよ!」


疑念の渦に沈みそうになっていた望の意識を掬(すく)い上げたのは、イリスの援護に回っていた徹の声だった。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート