兄と妹とVRMMOゲームと

留菜マナ
留菜マナ

第百十六話 もうすぐ魔法がとけるから①

公開日時: 2021年1月12日(火) 16:30
文字数:1,672

「俺も負けていられないな!」


望達の戦いぷりが、勇太の心に火を点ける。

露骨な戦意と同時に、勇太は一気にモンスター達との距離を詰めた。


『フェイタル・レジェンド!』


勇太は大剣を構え、大技をぶちかました。

勇太の放った天賦のスキルによる波動が、モンスター達を襲う。


「「はあっ!」」

「行くぜ!」


望とリノア、そして勇太の攻撃が、モンスター達を蹴散らしていく。

山のようにいたモンスター達が、次々と討ち果たされていった。


「行きます!」


裂帛の咆哮とともに、プラネットは力強く地面を蹴り上げた。


「はあっ!」


気迫の篭ったプラネットの声が響き、宙を舞っていた飛行モンスター達は次々と爆せていく。

やがて、有達を包囲していた、全てのモンスター達が消滅していった。


「モンスター達による包囲網からは、何とか脱出できたようだ」


全てのモンスター達を全滅させてみせた望達の姿を見て、有は安堵の吐息を漏らす。

やがて、有は一呼吸置くと、躊躇うように前に進み出る。


「望、奏良、プラネット、妹よ。すまない」

「お兄ちゃん?」


狼狽する妹の様子に、有はあえて真剣な口調で続けた。


「『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』のクエスト、失敗に終わりそうだ」

「……有。今日一日で、このクエストを攻略するのは無理難題だ。僕としては、当然の結果だと思う」


有の謝罪に、奏良はモンスター達を威嚇するように発砲しながら苦言を呈した。

有の表情が硬く強張ったのを見て、奏良は付け加えるように続ける。


「だが、期間限定の上に、攻略情報が非公開という難易度の高い上級者クエスト。それをたった一日で、ここまで挑戦できたことは有意義だったと思う」

「はい。それに、難攻不落なボスモンスターを討伐する方法はあります」

「討伐する方法?」


有の疑問を受けて、プラネットは花音に目配せした。

花音は即座にインターフェースを使い、ステータスを表示させると、先程覚えたばかりの新たなスキル技を確認する。


「妹よ、どういうことだ?」

「あのね、お兄ちゃん。ここに来る途中に、新しいスキルを覚えたんだよ!」


有の発言に、花音は両手を広げて歓喜の声を上げた。


「花音が新しく覚えたスキル『クロス・バースト』を使えば、ボスモンスターは封印の効果で、特性そのものを使えなくなる」

「そういえば、鞭の天賦のスキルは、ステータス異常を発生させる技が多かったな」


奏良が事実を如実に語ると、勇太は納得したように首肯する。


「ステータス異常……?」


そこでようやく、勇太は先程、賢が口にしていた詭弁に気づく。


「気づいてしまったか……」


奏良が告げた想定外の提案に、モンスター達を葬っていた賢は表情にわずかな亀裂を入れる。

その理由について、もう疑念を差し込む余地はなかった。


最初から、そのことに気づいていたーー。


混乱しきっていた思考がどうにか収まり、勇太は剣呑の眼差しで賢を睨み付けた。


「おまえ、やっぱり、最初から『封印を施すスキル』を使えば、ボスを倒せることを知っていたんだな!」

「君の考えているとおりだ」


鬼気迫る勇太の激昂を、賢は軽く受け流す。


「先程の提案は、俺に協力を求めるための虚言だったんだな」

「先程の提案は、私に協力を求めるための虚言だったの」

「敢えて、無益な争いを好む必要はないからな」


望とリノアの否定的な意見を、賢は予測していたように作業じみたため息を吐いた。


「美羅様の真なる力は、どのようなものなのか。私は知りたい。そして君達が、美羅様とシンクロすることで、あまねく人々を楽園へと導きたいんだ」


賢は恍惚とした表情で天井を見上げながら、己の夢を物語る。


「「「「ガアアッーーーー!!」」」」

「「ーーっ!」」


スタンが解け、再び迫ってきた四体の巨人達の猛攻に、望とリノアは戸惑うように息を呑んだ。

賢は一呼吸おいて、異様に強い眼光を望達に向ける。


「さて、そろそろ、クエスト終了間近だ。君達の最後の健闘を、この場から見守ろうか」

「「ーーっ」」


賢が告げる明白な事実ーー。

クエスト終了の時間が刻一刻と迫る中、望達は封印スキルを使える花音を筆頭に、ボスモンスター達へと向き合ったのだった。


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