望達が持てる手段ーーそれらを確認している途中で、上空からトラップを仕掛けていたイリスから連絡が入った。
『徹様、上空から仕掛けられるトラップを全て配置しました。それと同時に避雷針と思われるトラップがいくつか散在しているのを確認しましたので、その際についてご連絡させて頂きました』
「分かった。このまま、索敵ーー周囲の危険の有無の確認を頼むな」
『了解しました』
徹は通信を切り、神妙な面持ちで街道を眺める。
イリスは闇に紛れて、徹の情報を頼りに上空を駆け抜けていた。
意図的に薄い存在感を徹していた彼女は、『アルティメット・ハーヴェスト』のギルドメンバー達と疎通して信也の居場所を特定している。
だが、信也達もまた、上空を旋回しているイリス達の動向に気づいていた。
いつでも交戦できる構えを取っている。
「『アルティメット・ハーヴェスト』が誇るNPC。彼女とは何かしらの縁があるな」
信也は余裕を見せるように笑みを浮かべ、相手の腹を探るように上空を仰ぎ見た。
「随分と余裕ですね」
信也の言葉に呼応するように、気迫の篭ったイリスの声が響き渡る。
「私達は開発者側だからな。ゲーム内のモンスターの動きは把握している」
「……そのようですね」
信也の戯れ言に、イリスは不満そうに表情を歪める。
そこで、信也は王都『アルティス』の入口で戦況を見据えている望達に目を向けた。
「有、俺達のいる位置を知られたみたいだ」
「有、私達のいる位置を知られたみたい」
「そのようだな」
この状況に気づいた望とリノアは、即座に事の次第を有達へと報せる。
「しかし、蜜風望くん達には既に私がいる場所を気づかれてしまったか」
「とにかく、愛梨も紘も、そして望も、おまえ達に渡すつもりなんてないからな!」
信也の言葉を打ち消すように、前に出た徹はきっぱりとそう言い放った。
「そもそも、大軍で攻めてきたのなら何故、一人で冒険者ギルドを訪れたんだよ!」
「先程、告げたはずだ。私は冒険者ギルドで久遠リノアに関する調べ物をしていただけだ」
「みんな、惑わされるなよ!」
信也の声を遮ったのは、先程までイリスと連絡を取り合っていた徹だった。
徹は望達を護るようにして立ち塞がると、剣呑の眼差しを込めて告げる。
「こいつは今回、ここで俺達との因縁に決着をつけるつもりだ!」
「もちろん、そのつもりだ」
「……っ」
信也の即座の切り返しに、徹とイリスは胡散臭そうに睨みつける。
信也は、望達に一瞥くれて言い直した。
「……それとは別に、美羅から授かった『明晰夢』の力の予行練習をしたかったと言えば伝わるかな」
「やっぱり、おまえも『明晰夢』の力が使えるんだな!」
「そう取ってもらっても構わないよ」
徹の見解を、信也は予測していたように作業じみたため息を吐いた。
信也は望に視線を向けると一転して、柔和な笑みを浮かべる。
「蜜風望くん、椎音愛梨さん。一緒に来てもらえるかな?」
「ーーっ」
信也が近づいてくると、望達は一斉に武器を構えた。
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