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留菜マナ
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第ニ百十四話 心燿のロンド②

公開日時: 2021年4月19日(月) 16:30
文字数:1,643

望達は信也達を振り切り、牢獄へと向かうために駆け出していた。

信也達は、牢獄内部へと入った望達を追ってはこなかった。

しかし、『カーラ』のギルドメンバー達が召喚したモンスター達が、望達のもとへまるで呼び水のように集まってくる。


「わーい! 今度はモンスター達の大群だよ!」

「それどころじゃない」

「それどころじゃないよ」


両手を広げて喜ぶ花音をよそに、望とリノアは必死に牢獄の奥へと進んでいった。


「喰らえ!」


奏良は足を止め、銃口を後方のモンスター達に向けて発砲する。

焦りもない。

怯えもない。

正確無比な射撃で、奏良はただ眼前の敵達を撃ち抜いた。


「奏良よ、今すぐ風の魔術のスキルを使って逃げるぞ!」


奏良の一連の動きを見て、有はすぐにその決断を下した。


「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。そもそも、何故、牢獄内で、風の魔術のスキルを使って逃げる必要がある」


有の提案に、奏良は懐疑的である。

だが、それでもこの状況を打破するためには、それしかないと奏良は悟った。


『エアリアル・アロー!』


奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉に後方の『カーラ』のギルドメンバー達へと襲いかかった。


「ーーっ!」


放たれた風の矢を、上体をそらすことでかわした『カーラ』のギルドメンバー達は、視界を遮る風圧に反撃の手を止める。


『エアリアル・クロノス!』


その隙に、奏良は風を身体に纏わせて飛翔した。

望達も、風に引っ張られるように空に浮かぶ。


「よし、奏良よ。このまま、牢獄の最奥部に向かうぞ!」

「牢獄の中で、空を飛ぶのってすごいねー!」

「すごいのか……?」

「すごいの……?」


有と花音が楽しそうにしている中、望とリノアは表情を凍らせていた。

インターフェースで表示した『サンクチュアリの天空牢』のマップを確認しながら、有は拳を掲げて宣言する。


「望、奏良、プラネット、勇太、リノア、徹、そして妹よ、行くぞ! 『サンクチュアリの天空牢』の最深部の牢へ!」

「牢獄の中なのに、空を飛んで行くのか」

「牢獄の中なのに、空を飛んで行くの」


望とリノアの疑惑が届くこともないまま、望達は最深部を目指して、牢獄中を滑走していった。

しかし、『カーラ』のギルドメンバー達が新たに召喚した飛行モンスター達が目前に迫ってくる。


「お兄ちゃん、空を飛んだことが裏目に出たよ!」

「心配するな、妹よ。想定内だ」


慌てる花音の声を遮り、有は杖の先端を格子にぶつけた。

有の杖が格子に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

格子の一つが、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。

格子の一つが消えたことで、その直撃を受けた牢獄内部には大きな亀裂が入る。


「格子一本分の元素では、回復アイテムを一つ作るくらいが関の山だな」


有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見ていた。

瓦礫の山へと変わり果てた牢獄内部。

呆気に取られる『カーラ』のギルドメンバー達を視界から逸らして、望達は対岸から悠々と牢獄の最深部へと向かう。


「仕方ない。一度、かなめ様に報告するぞ」


望達が踵を返すのを確認して、『カーラ』のギルドメンバー達もまた、かなめ達のもとへと走り出す。


「上手くいったな」


目の前で巻き起こる想定どおりの結果に、拳を突き上げた徹は安堵の表情を浮かべる。


「君は何もしていないだろう」

「……おまえ、一言多いぞ」


奏良の言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせた。


「徹くん、『サンクチュアリの天空牢』の最深部の牢まではあと少しなのかな?」

「ああ。イリスの情報では、ここをまっすぐに突っ切った場所が最深部の牢だ」


花音が声高に疑問を口にすると、徹はイリスからの情報を確認しながら応える。


「なら、改めて、『氷の結晶』の使い道について模索しなくてはならないな。『氷の結晶』には、『潜水アイテム』を作る以外にも様々な使い道がある。新しいアイテムを作成すれば、このダンジョンから脱出する目処が立つかもしれないからな」


クエスト情報を散見していた有は、意味ありげに表情を緩ませた。

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