望達は信也達を振り切り、牢獄へと向かうために駆け出していた。
信也達は、牢獄内部へと入った望達を追ってはこなかった。
しかし、『カーラ』のギルドメンバー達が召喚したモンスター達が、望達のもとへまるで呼び水のように集まってくる。
「わーい! 今度はモンスター達の大群だよ!」
「それどころじゃない」
「それどころじゃないよ」
両手を広げて喜ぶ花音をよそに、望とリノアは必死に牢獄の奥へと進んでいった。
「喰らえ!」
奏良は足を止め、銃口を後方のモンスター達に向けて発砲する。
焦りもない。
怯えもない。
正確無比な射撃で、奏良はただ眼前の敵達を撃ち抜いた。
「奏良よ、今すぐ風の魔術のスキルを使って逃げるぞ!」
奏良の一連の動きを見て、有はすぐにその決断を下した。
「有。君は人使いが荒い上に、全く効率的ではない。そもそも、何故、牢獄内で、風の魔術のスキルを使って逃げる必要がある」
有の提案に、奏良は懐疑的である。
だが、それでもこの状況を打破するためには、それしかないと奏良は悟った。
『エアリアル・アロー!』
奏良が唱えると、無数の風の矢が一斉に後方の『カーラ』のギルドメンバー達へと襲いかかった。
「ーーっ!」
放たれた風の矢を、上体をそらすことでかわした『カーラ』のギルドメンバー達は、視界を遮る風圧に反撃の手を止める。
『エアリアル・クロノス!』
その隙に、奏良は風を身体に纏わせて飛翔した。
望達も、風に引っ張られるように空に浮かぶ。
「よし、奏良よ。このまま、牢獄の最奥部に向かうぞ!」
「牢獄の中で、空を飛ぶのってすごいねー!」
「すごいのか……?」
「すごいの……?」
有と花音が楽しそうにしている中、望とリノアは表情を凍らせていた。
インターフェースで表示した『サンクチュアリの天空牢』のマップを確認しながら、有は拳を掲げて宣言する。
「望、奏良、プラネット、勇太、リノア、徹、そして妹よ、行くぞ! 『サンクチュアリの天空牢』の最深部の牢へ!」
「牢獄の中なのに、空を飛んで行くのか」
「牢獄の中なのに、空を飛んで行くの」
望とリノアの疑惑が届くこともないまま、望達は最深部を目指して、牢獄中を滑走していった。
しかし、『カーラ』のギルドメンバー達が新たに召喚した飛行モンスター達が目前に迫ってくる。
「お兄ちゃん、空を飛んだことが裏目に出たよ!」
「心配するな、妹よ。想定内だ」
慌てる花音の声を遮り、有は杖の先端を格子にぶつけた。
有の杖が格子に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。
格子の一つが、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。
格子の一つが消えたことで、その直撃を受けた牢獄内部には大きな亀裂が入る。
「格子一本分の元素では、回復アイテムを一つ作るくらいが関の山だな」
有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見ていた。
瓦礫の山へと変わり果てた牢獄内部。
呆気に取られる『カーラ』のギルドメンバー達を視界から逸らして、望達は対岸から悠々と牢獄の最深部へと向かう。
「仕方ない。一度、かなめ様に報告するぞ」
望達が踵を返すのを確認して、『カーラ』のギルドメンバー達もまた、かなめ達のもとへと走り出す。
「上手くいったな」
目の前で巻き起こる想定どおりの結果に、拳を突き上げた徹は安堵の表情を浮かべる。
「君は何もしていないだろう」
「……おまえ、一言多いぞ」
奏良の言及に、徹は恨めしそうに唇を尖らせた。
「徹くん、『サンクチュアリの天空牢』の最深部の牢まではあと少しなのかな?」
「ああ。イリスの情報では、ここをまっすぐに突っ切った場所が最深部の牢だ」
花音が声高に疑問を口にすると、徹はイリスからの情報を確認しながら応える。
「なら、改めて、『氷の結晶』の使い道について模索しなくてはならないな。『氷の結晶』には、『潜水アイテム』を作る以外にも様々な使い道がある。新しいアイテムを作成すれば、このダンジョンから脱出する目処が立つかもしれないからな」
クエスト情報を散見していた有は、意味ありげに表情を緩ませた。
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