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留菜マナ
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第三十ニ話 魔天楼を見上げて④

公開日時: 2020年11月17日(火) 16:00
文字数:1,163

紘と徹は、久しぶりに中学に通う愛梨を気遣って、一緒に並んで歩いていく。

愛梨の友人と待ち合わせしている駅に着いた紘達は、愛梨を連れ添って、足早に人込みの中を歩き、駅の電光板の時刻に目をやった。

見れば、愛梨の友人が来る三分前だった。


「何とか間に合ったな」


ギリギリではあったが、とりあえず間に合ったことに、徹は安心する。


「すごい……」


久しぶりに触れる朝方の駅の喧騒に、愛梨は息を呑み、驚きを滲ませた。

やがて、待ち合わせの時間を告げるアナウンスが辺りに聞こえる。


「そろそろ、来る頃合いだな」

「愛梨!」


徹がそう言った矢先、不意に少女の声が聞こえた。

声がした方向に振り向くと、少しばかり離れたコンビニで、ポニーテールの少女が愛梨達の姿を見とめて何気なく手を振っている。

愛梨達の元へと駆けよってきた少女が、柔らかな笑顔で言った。


「愛梨、おはよう」

「おはよう……」


少女が気兼ねなく挨拶すると、愛梨は戸惑いながらも応える。

愛梨の友人、木花(きはな)小鳥(ことり)だ。


「愛梨、無理はするなよな。何かあったら、すぐに携帯端末で知らせろよ」

「……うん」


徹の配慮に、愛梨は小さく頷いた。


「まあ、問題ないだろうけれどな」


徹はそう言って空笑いを響かせると、ほんの一瞬、複雑そうな表情を浮かべる。

心細そうな愛梨のもとまで歩み寄ると、紘は優しく微笑んだ。


「愛梨、大丈夫だ」

「……うん」


愛梨は寂しげにそう口を開いた後、何かを訴えかけるように自分の胸に手を当てる。

そのタイミングで、小鳥は誇らしげに言った。


「愛梨のお兄さん、心配しないで下さい。愛梨は、私達が絶対に守りますから」

「どうして、そこまでしてくれるの……?」

「えっ? そ、それはーー」


愛梨の指摘に目を見張り、息を呑んだ小鳥は、明確に言葉に詰まらせた後ーー


「愛梨を守る。それが、私達に課せられた使命だからだよ」


胸に手を当てて穏やかな表情を浮かべる。

まるで、それが当たり前のことのように、小鳥は告げたーー。


「使命?」


愛梨は不思議そうに小首を傾げる。


「ああ。二度と、愛梨を死なせるわけにはいかない。そのためなら、私は何でもする」

「お兄ちゃん」


紘の感情のこもった言葉。

だけど、ただ事実を紡いだだけの言葉。

愛梨の心を読み、その先を推測するような受け答えに、愛梨は強い懐かしさを覚える。


私が困っていた時、苦しんでいた時、いつもお兄ちゃんが助けてくれた。

『あの力』を使って、守ってくれた。


否応なしに思い出す記憶を支えに、愛梨は紘を見上げる。


『愛梨のことは、先生やクラスメイト達に『守ってくれるように頼んでいる』』


曖昧だった紘の言葉に与えられる具体的な形。

違和感を感じることに、違和感があるようなメタ構造を持った疑問。

不可解で不自然な現象。

それは紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされたものだった。

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