紘と徹は、久しぶりに中学に通う愛梨を気遣って、一緒に並んで歩いていく。
愛梨の友人と待ち合わせしている駅に着いた紘達は、愛梨を連れ添って、足早に人込みの中を歩き、駅の電光板の時刻に目をやった。
見れば、愛梨の友人が来る三分前だった。
「何とか間に合ったな」
ギリギリではあったが、とりあえず間に合ったことに、徹は安心する。
「すごい……」
久しぶりに触れる朝方の駅の喧騒に、愛梨は息を呑み、驚きを滲ませた。
やがて、待ち合わせの時間を告げるアナウンスが辺りに聞こえる。
「そろそろ、来る頃合いだな」
「愛梨!」
徹がそう言った矢先、不意に少女の声が聞こえた。
声がした方向に振り向くと、少しばかり離れたコンビニで、ポニーテールの少女が愛梨達の姿を見とめて何気なく手を振っている。
愛梨達の元へと駆けよってきた少女が、柔らかな笑顔で言った。
「愛梨、おはよう」
「おはよう……」
少女が気兼ねなく挨拶すると、愛梨は戸惑いながらも応える。
愛梨の友人、木花(きはな)小鳥(ことり)だ。
「愛梨、無理はするなよな。何かあったら、すぐに携帯端末で知らせろよ」
「……うん」
徹の配慮に、愛梨は小さく頷いた。
「まあ、問題ないだろうけれどな」
徹はそう言って空笑いを響かせると、ほんの一瞬、複雑そうな表情を浮かべる。
心細そうな愛梨のもとまで歩み寄ると、紘は優しく微笑んだ。
「愛梨、大丈夫だ」
「……うん」
愛梨は寂しげにそう口を開いた後、何かを訴えかけるように自分の胸に手を当てる。
そのタイミングで、小鳥は誇らしげに言った。
「愛梨のお兄さん、心配しないで下さい。愛梨は、私達が絶対に守りますから」
「どうして、そこまでしてくれるの……?」
「えっ? そ、それはーー」
愛梨の指摘に目を見張り、息を呑んだ小鳥は、明確に言葉に詰まらせた後ーー
「愛梨を守る。それが、私達に課せられた使命だからだよ」
胸に手を当てて穏やかな表情を浮かべる。
まるで、それが当たり前のことのように、小鳥は告げたーー。
「使命?」
愛梨は不思議そうに小首を傾げる。
「ああ。二度と、愛梨を死なせるわけにはいかない。そのためなら、私は何でもする」
「お兄ちゃん」
紘の感情のこもった言葉。
だけど、ただ事実を紡いだだけの言葉。
愛梨の心を読み、その先を推測するような受け答えに、愛梨は強い懐かしさを覚える。
私が困っていた時、苦しんでいた時、いつもお兄ちゃんが助けてくれた。
『あの力』を使って、守ってくれた。
否応なしに思い出す記憶を支えに、愛梨は紘を見上げる。
『愛梨のことは、先生やクラスメイト達に『守ってくれるように頼んでいる』』
曖昧だった紘の言葉に与えられる具体的な形。
違和感を感じることに、違和感があるようなメタ構造を持った疑問。
不可解で不自然な現象。
それは紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』によってもたらされたものだった。
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