「私、やっぱり、美羅様の器なんかになりたくない! だって、勇太くんのことが好きだから!」
あの日の記憶。
些細な喧嘩が元で、絶交中だった大切な幼なじみ。
だからこそ、リノアは強くなりたいと願った。
今まで不可能だったことを可能にするために。
勇太の想いに応えるために。
「リノアちゃん、元に戻ったのかな?」
「いや、完全には元に戻っていないはずだ。リノアにはまだ、美羅が宿っているからな」
一連の流れを見ていた花音が表情を華やかせるものの、奏良は努めて冷静に分析した。
「お兄ちゃん。これからどうしたらいいのかな?」
「妹よ、まずはこの場から離れるぞ。リノアの意識が戻ったとはいえ、それはわずかの間だけだ。『レギオン』のギルドホームに行って、美羅を完全に消滅させる必要があるからな」
花音の戸惑いに、有は思案するように視線を巡らせる。
「そうだな。『サンクチュアリの天空牢』にいた美羅の残滓を消滅させたから、リノアは意識を取り戻すことができた。でも、いずれは美羅の支配を受けてしまう」
望は情報を照らし合わせてから、前を見据えた。
「ああ。リノアの意識を完全に取り戻すためには、全ての美羅の残滓を消滅させなくてはならない。リノアの意識が完全に覚醒すれば、美羅を消滅させることができるはずだ。そのためには、迅速な対応が必要になる」
だからこそ、徹は敢えてそう結論づける。
あらゆる可能性を拾い集めるしかないと。
「花音、一緒に頑張ろうな」
「うん。私、望くんと愛梨ちゃんの力を信じている。だって、望くんと愛梨ちゃんの力は希望の光だから」
望の言葉に、花音は胸のつかえが取れたように宣言する。
そして、朝の光のような微笑みを望に向けた。
信じているーー。
その言葉には何の根拠もなく、何かの保証には決してなり得ないことを知りながらも……。
花音が口にすると、まるでそれは既に約束された未来の出来事のように感じられた。
望の中で漲る力が全身を駆け巡る。
何物にも代えがたい花音の笑顔。
その笑顔を護りたいと望は切に願う。
『……みんなの力になりたい』
不意に愛梨の声が聞こえた。
それは望を介し、望の意味が付与された愛梨の想い。
「ああ、そうだな。俺はーーいや、俺達は諦めない!」
顔を上げた望は、胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。
望は前を見据えて、この世界で、たった一つだけの自身のスキルを口にする。
『魂分配(ソウル・シェア)!』
そのスキルを使うと同時に、蒼の剣からまばゆい光が収束する。
蒼の剣からは、かってないほどの力が溢れていた。
望が蒼の剣を掲げると、さらなる輝きを発する。
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