討伐クエスト。
護衛クエスト。
探索クエスト。
アイテム生成クエスト。
様々な種類のクエストが表示されている。
それを視野に納めている最中で、望は不可思議な事実に気づき、目を瞬かせる。
「運営がいないのに、クエストは提示されているんだな?」
「はい。私達が、プロトタイプ版に馴染んできた頃、クエストは再び、提示されるようになりました」
望の質問に、プラネットは律儀に答えた。
「今までと何も変わらず、『創世のアクリア』の世界は回り続けている。それなのに、プレイヤーは、俺達しかログインしていないのか」
望は仮想世界に戻ってきてから、ずっと疑問に思っていたことを口にした。
敵である開発者達が管理をしている、『創世のアクリア』のプロトタイプ版。
運営がいない今、これからクエストを受けるためには、他のプレイヤーやギルドに提供してもらう必要がある。
その中にはもちろん、特殊スキルの使い手達を狙っている者達のクエストもあるはずだ。
敵対している高位ギルドのクエストを受けるーー。
それは、想像以上に危険極まりない行為だろう。
しかし、これらのクエストの中には、現実世界の状況を改善する手がかりになるものも紛れているかもしれない。
これからは、クエストを受けるかーー受けないか。
二律背反に苛まれ、望は困ったようにため息を吐いた。
「望が『創世のアクリア』のプロトタイプ版にログインしたことで、愛梨の時間は元に戻ったはずだ。だが、望に愛梨へと変わってもらう前に、確認しなくてはならない事ができたな」
もっとも恐れていた事態の到来に、奏良は悔しそうに言葉を呑み込む。
「有。それぞれのクエストの提供元は分からないのか」
「『アルティメット・ハーヴェスト』か、もしくは『レギオン』と『カーラ』だとは思うが、こればかりは調べてみないと分からないな」
奏良の懸念に、有はインターフェースを操作して、クエストの提供者を割り出そうとした。
「奏良よ、出たぞ。どうやら、プロトタイプ版にログインしている高位ギルド全てが、クエストを提示しているようだ」
「有様。高位ギルドは、提供者へのアクセスを拒否されていないのですか?」
有の言葉に反応して、プラネットがとらえどころのない空気を固形化させる疑問を口にする。
通常、クエストの提供元を割り出すのは困難である。
しかし、プロトタイプ版では、有が調べて間もないうちに特定することができた。
つまり、高位ギルドは、自身のギルドがクエストを出していることを包み隠さず提示していることになる。
「プラネットよ、プロトタイプ版にログインしている者達は限られている。隠す必要性がないのだろう」
「そうだな」
有の懸念に、望は緊張した面持ちで告げた。
「それにしても、プロトタイプ版か」
現実世界で引き起こされた忌まわしき出来事が、望にはまるで今、起きたことのように追憶される。
『レギオン』の元ギルドマスターであり、愛梨のデータの集合体である美羅。
そして、美羅と同化したリノア。
望達が現実世界に帰還したことで、それと連動するかのように、明晰夢で見た内容と同様の現象が起きた。
あの時ーー『朽ち果てた黄昏の塔、パラディアム』のクエストで仕組まれていた、リノアとの邂逅。
まるで、望の意識が直接、リノアを動かしている現象。
鏡写しのような同一動作と、『レギオン』による座標操作。
それは、『カーラ』のギルドホームで垣間見た美羅の現象と同一のものだった。
望が思い悩んでいる最中、周囲の様子を窺っていたプラネットは真剣な眼差しで有を見つめた。
「有様。『レギオン』と『カーラ』が提供してきたクエストを受けるのは危険だと判断します」
「プラネットよ、分かっている」
プラネットの懸念に、有はインターフェースを使って、クエストの提供元である高位ギルドの情報を検索する。
新興に当たる高位ギルドであり、『レギオン』の傘下のギルドである『カーラ』。
そして、特殊スキルの使い手達とシンクロさせて、美羅と同化したリノアの真なる力の発動を狙う高位ギルド、『レギオン』。
『アルティメット・ハーヴェスト』の監視と協力があるとはいえ、全てを判断し、対処していくのは困難極まりないだろう。
有は今回、表立って、現実世界を改変してきた二大高位ギルドの情報を改めて吟味した。
「有。これからは、戦略を臨機応変に変更していく必要がありそうだ」
奏良は腕を組んで考え込む仕草をすると、高位ギルドの情報を物言いたげな瞳で見つめる。
「徹くん達、あれからどうしているのかな?」
花音は途方にくれたようにつぶやくと、ギルドの外をじっと眺めた。
「愛梨ちゃんに会いたいな」
赤みがかかった髪を揺らした花音が、顔を俯かせて声を震わせる。
すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。
「花音。情報収集が終わったら、愛梨に変わるからな」
「……うん。望くん、ありがとう」
顔を上げた花音は、胸のつかえが取れたように微笑む。
望は深呼吸をすると、これからの戦いに向けて、身体をほぐして両手を伸ばした。
「とにかく、今はここで作戦会議をしよう。その上で、これからの方針を決めないとな」
「うん」
手を差し出してきた望の誘いに、花音は満面の笑顔で頷いた。
二人の手が重なる。
「また、みんなでクエストを受けられるといいな」
「望くんと愛梨ちゃんは、これからも私達の仲間だよ!」
望の視線を受けて、花音は喜色満面で答えたのだった。
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