「お兄ちゃん。愛梨ちゃんのお兄さんは、どうして今まで一緒に戦ってくれなかったのかな?」
花音が戸惑ったように訊くと、有は顎に手を当てて、真剣な表情で思案する。
「妹よ。椎音紘は幾度も、愛梨のために強硬手段に及んでいた。愛梨を護るために、俺達の知らないところで動いていたのかもしれないな」
「愛梨を護るためには、必要な行為なのだろう。だが、実際にはかなり行き過ぎた行動だと僕は思う」
有の思慮に、奏良は複雑そうな表情で視線を落とす。
紘の特殊スキル、『強制同調(エーテリオン)』。
それは過去、現在、未来、全てを見据えた上で、未来へと導いていく力だ。
もし、彼が特殊スキルの力を持ち合わせていなければ、美羅の持つ特殊スキルの力によって、紘達は恐らく、望達の戦いに介入することは出来なかっただろう。
「椎音紘は、あの時、愛梨を護れなかったことを後悔しているのかもしれないな。だからこそ、裏で必死に動き回っている」
有の説明を聞いて、望は疑問だらけの脳内を整理する。
半年前ーー。
愛梨が死んだのは、愛梨の両親の離婚が原因だった。
そして、椎音紘と徹は、彼女を護ることができなかったことを今も悔いている。
「本来なら、美羅の特殊スキルによって、『アルティメット・ハーヴェスト』の者達の助勢は得られないはずだ。だが、僕達は常に彼らの力を借りれる状況にある」
「奏良よ。恐らく、椎音紘は特殊スキルの力を用いて、どんな状況でも戦況を有利に進めるための手筈を踏んでいるのだろう」
奏良の言及に、有は落ち着いた口調で答える。
「お兄ちゃん。それって、愛梨ちゃんのお兄さんは、美羅ちゃんの特殊スキルと戦っているの?」
有の言葉に反応して、花音がとらえどころのない空気を固形化させる疑問を口にした。
「妹よ、恐らく、そうだろう。その上で、俺達が再び、接触することを待っている節がある」
初めて出会った時のことを想起させるような状況に、有は切羽詰まったような声で告げる。
「開発者達である『レギオン』と『カーラ』も、それに対抗するために、『創世のアクリア』のプロトタイプ版の権限を使って、ダンジョンなどの内部を新たに再構築させているのだろう」
有は一息つくと、事態の重さを噛みしめる。
そこで、『創世のアクリア』の世界の真実に纏わる話は、一先ず終わりを告げる。
有の母親は前に進み出ると、不穏な空気を吹き飛ばすように口火を切った。
「さてと、そろそろ夕食にしようかね」
「わーい、みんなで一緒にお泊まり会だよ!」
有の母親の穏やかな微笑みに寄り添うように、花音は喜色満面に応える。
激化していく状況。
ついに、残り三ヶ所になったダンジョン調査。
そして、紘達の協力を得て、『レギオン』の拠点である機械都市『グランティア』へ向かう意思を固める。
様々な思いが交錯する中、世界全体を揺るがす戦いへ向け、望達は少しずつ歩み始めたのだった。
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