望達が思うがまま、湖を捜索していた途中で、イリスから事前調査が終了した連絡が入る。
『徹様。『サンクチュアリの天空牢』を調査した結果、どの牢獄にも、クエスト達成条件になります、NPCの少女は囚われていませんでした。ですが、最深部の牢にたどり着いた時点で、クエスト達成の表示がされました』
「分かった。引き続き、『サンクチュアリの天空牢』の索敵を頼むな」
『了解しました』
徹は通信を切り、神妙な面持ちで水上を眺めた。
「『サンクチュアリの天空牢』には、やっぱりNPCの少女は囚われていなかったようだな」
「そうだね」
有の発言に、花音は不安そうにつぶやいた。
「とにかく、一度、ギルドに戻るぞ」
「うん」
有の宣言に、花音は同意する。
湖の捜索を切り上げて、望達は地上に戻っていった。
泡が水面から水柱を上げながら、地上に躍り出た。
望達が着地すると、望達を覆っていた泡は消えていく。
「水の中は戦いにくいな」
「水の中は戦いにくいね」
「わーい! 地上に戻ってきたよ!」
剣を柄に戻した望とリノアが一呼吸置くと、駆け寄ってきた花音は歓喜の声を上げた。
「望くん、水の中ってすごいね!」
「そうだな」
「そうだね」
花音が声高に思いのままを述べると、望とリノアは困ったように答える。
「よし、ギルドに戻って、『サンクチュアリの天空牢』に向かうための対策を立てるぞ!」
「ああ」
「うん」
「それしか、この状況を打破する手段はなさそうだからな」
有の方針に、望とリノアが頷き、奏良は渋い顔で承諾する。
目的が定まった望達は再び、ギルドへと足を運ぶ。
「ただいま、お父さん、お母さん!」
「有、花音」
「花音、お帰り」
花音が喜色満面でギルドに入ると、奥に控えていた有の両親は穏やかな表情を浮かべる。
アンティークな雑貨の数々と、有の母親の火の魔術のスキルで光らせている灯は、ギルド内に幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「徹よ、『サンクチュアリの天空牢』はどうなっている?」
「クエスト達成条件として記されていたNPCの少女は、どの牢獄にも囚われていない。そして、最深部の牢にたどり着いた時点で、クエスト達成の表示がされるようになっている」
有の鋭い問いに、徹は不服そうに答える。
「つまり当初、予定されていた『NPCの少女』はリノアだったというわけだな」
「ああ、恐らくな」
有の疑問に答えた徹の胸に、様々な情念が去来する。
リノアは『キャスケット』に所属したことで、望と同一動作をするようになった。
そのことによって、愛梨とリノアが接触する可能性が高まっている。
そして、リノアを預けてきた『レギオン』と『カーラ』の動向を探る偵察。
徹は頭の中に溢れる、これからおこなわないといけない情報を整理した。
正直、やることが多すぎて、手詰まり間が否めない。
「イリス達には引き続き、ダンジョンの索敵を行ってもらっている。『サンクチュアリの天空牢』には、日を改めて行った方がいいと思っているんだ」
「つまり、まだ得体の知れないダンジョンなんだな。どこまで二大高位ギルドと渡り合えるのか、判断がつかんな」
徹の説明に、奏良は疲れたように大きく息を吐いた。
「とにかく、イリスの報告を待つしかないな」
徹は気持ちを切り替えるように一呼吸置くと、改めてギルド内を眺めた。
「ダンジョン調査クエストの件、それにリノアを元に戻す方法の捜索、やることがたくさんあるな」
「ダンジョン調査クエストの件、それに私を元に戻す方法の捜索、やることがたくさんあるね」
「望くん、リノアちゃん、一緒に頑張ろうね」
望とリノアが咄嗟にそう言ってため息を吐くと、花音は元気づけるように望達を見つめる。
そこで、有の母親は少し困ったように切り出した。
「みんな。そろそろ時間も遅いし、『サンクチュアリの天空牢』に赴くのは次の機会にした方がいいね」
「そうだな」
「そうだね」
「調査報告も時間がかかりそうだから、別の日に改めるのが妥当だな」
有の母親がインターフェースで表示した時刻に、望とリノア、そして奏良は視線を向ける。
目的を再確認して、望達は決意を新たにするのだった。
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