「リノアは、美羅なんかじゃない! リノアにこれ以上、変なことをするな!」
「なら、彼女自身に認めてもらうしかないか」
勇太がはっきりと拒絶の言葉を叩きつけると、賢は吹っ切れたような言葉とともに不敵な笑みを浮かべた。
「蜜風望。美羅様の真なる力の発動には、君と椎音愛梨の力が必要だ」
「悪いけれど、俺は協力するつもりはない」
「悪いけれど、私は協力するつもりはない」
ゆっくりと手を差し出した賢の誘いに、望とリノアはきっぱりと否定する。
「そうか。なら、交換条件だ。君が、美羅様の真なる力の発動に協力してくれた場合、久遠リノアとその両親を『レギオン』から脱退させよう。そして、私達、『レギオン』と『カーラ』は自ら、警察に赴いてもいい」
「「なっ!」」
賢の静かな決意を込めた声。
付け加えられた言葉に込められた感情に、望達は戦慄した。
「『レギオン』からの脱退……」
「リノアを、『レギオン』から解放することができるの……」
召喚されていくモンスター達の対応に追われていたリノアの両親は、賢が提示した内容に目を見開いた。
「リノアを助けることができるのか……?」
勇太は一拍置いて動揺を抑えると、賢が口にした言葉を改めて、脳内で咀嚼する。
美羅の真の力を発動させるーー。
それがおこなわれた場合、『レギオン』と『カーラ』の二大高位ギルドは、この世界から退き、現実世界でも自首して自らの罪を償う。
そして、リノアとリノアの両親を、『レギオン』の魔の手から解放することができる。
運営が動き、警察の手が回った今、『レギオン』と『カーラ』はいずれ捕らえられるだろう。
しかし、その場合、リノアとリノアの両親も、警察に拘束されてしまうかもしれない。
その杞憂だけは、どうしても拭いきれなかった。
勇太の脳裏で、かってのリノアの声が反芻される。
『勇太くん』
大輪の向日葵のような、思わず目を奪われるリノアの笑顔。
幼い頃の勇太は、毎日が楽しくて仕方がなかった。日々、大好きな幼なじみの女の子と遊んで、家に帰れば優しい笑顔で家族が迎え入れてくれる。
そんな当たり前の幸せな日々。
だけど、リノア達がいなくなれば、そんな日々も失われてしまうだろう。
仮想世界だけではなく、現実世界にまで影響を及ぼしてくる高位ギルド。
自分達には、手に余る事柄だ。
本来なら、運営が『レギオン』と『カーラ』のギルドメンバー達のアカウントを強制に削除するか、警察が彼らを捕らえるのを待つべきかもしれない。
だが、勇太は、リノアとその家族を救いたかった。
傲慢な願いであると知りつつも、勇太はそう願った。
しかし、あの『レギオン』が口約束を守るとは思えなかった。
リノア達を救う方法が分からない。
答えが出せないまま、勇太の脳裏には、リノアへの様々な思いが去来した。
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