「リノア、心配するなよ。絶対に救ってみせるからな」
「勇太くん……」
勇太は改めて、戦う意思を固める。
リノアを蝕んでいる美羅という救世の女神と。
「とにかく、今の美羅は人智を超えた成長を遂げる『究極のスキル』そのものであり、時には特殊スキルの使い手の力を超えるほどの絶対的な力を持っている。残滓と化した思念を全て消滅させないと打つ手はないはずだ」
「そうだな」
その徹の言葉を聞いた瞬間、望は眸に困惑の色を堪える。
イリスが持っている槍と、ニコットが持っているアルビノの鞭。
伝説の武器同士がぶつかり合う中で、賢は厳かな口調で言い放った。
「ニコット、彼女達のことは任せた。私達は蜜風望を捕らえる」
「手嶋賢様、了解しました」
賢の指示に、ニコットは素直に従う。
「まるで、私など眼中にないような言い回しですね」
「久遠リノアは一時的に元に戻っただけだ。蜜風望が椎音愛梨に変われば、久遠リノアは再び、美羅様となる。この機会を逃すわけにはいかないからな」
状況説明を欲するイリスの言葉を受けて、賢は表情の端々に自信の満ちた笑みをほとばしらせた。
賢の思惑どおり、望が愛梨に変われば、愛梨の特殊スキルの力により美羅の真なる力は発動するだろう。
だがーー。
「そんなことさせるかよ!」
「なっ!」
賢がその存在に気づくのに十数秒の時間を要しーー。
その間に、想いが乗った勇太の大剣が賢を吹き飛ばした。
「蒼の剣、頼む!」
さらにその間隙を突いて、望は仕掛ける。
だが、望の加速に、賢はわずかに自身の武器である剣を動かし、望が進む先に刃先が来るようにして調整して対応した。
「くっ……」
望の切羽詰まった声は再度、ぶつかり合った勇太と賢の剣戟に吸い込まれて消える。
何度目かの攻防戦。
しかし、賢は望と勇太が連携しても、無類の強さを誇っていた。
「何度挑んできても、結果は同じだ」
「ーーっ!」
賢がさらに地面を蹴って、望に迫る。
望の隙を突いて、賢による最速の一突きが飛来した。
賢が繰り出す斬撃。
剣を翻した望は、それを寸前のところで避ける。
その隙に、勇太は大剣を振るう。
「なら、俺達がリノア達の道を切り開くだけだ!」
「勇太くん」
勇太の決意に、望は躊躇うように応える。
「今度こそ、絶対にリノアを救ってみせる!」
勇太は両手で大剣を構えると、立ち塞がる賢と向き合った。
勇太が今、対峙するべきは、迫る眼前の脅威だ。
そして、『レギオン』と『カーラ』への邪念よりも先に、大切な幼なじみを守るという信念。
「行くぜ!」
断定する形で結んだ勇太は、賢に向かって駆けていった。
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