今のリノアは望の思うままに動き、話している。
望は感覚的に、自身の手足を動かすようにリノアを動かした。
「こうか?」
「こう?」
「うん!」
リノアが見せた動きに、花音は飛びつくような勢いで両拳を突き上げて言い募った。
その途端、奏良は不快感を隠すことなく眉をひそめる。
「花音。気持ちは分かるが、もう少し愛梨に似せた行動を取ってほしい」
奏良は望達から目を逸らし、不満そうにつぶやいた。
「……奏良くん、ごめんなさい」
愛梨に扮したーー髪を揺らした花音が顔を俯かせて声を震わせる。
すると、望はそんな彼女の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうに囁き声でつぶやいた。
「……奏良くん、ごめんなさい」
「ーーっ」
悲しみに包まれたリノアの表情が、奏良の動揺に拍車をかける。
「「奏良くん……、これならどうかな……?」」
「……っ」
愛梨に扮した花音と、望と同じ動作をしているリノアからの切ない瞳。
二人の視線が奏良と合う。
「……多分、これならバレないと僕は思う」
「「うん……」」
その包み込むような温かい眼差しが、奏良の心に積もっていた不安を散らしていった。
雪が降りしきる空を仰いで、奏良は現実世界で垣間見た愛梨の柔らかな微笑みを思い浮かべる。
「僕が必ず、愛梨を守ってみせる。そして今度こそ、君の不安を取り除いてみせる」
『レギオン』と『カーラ』の者に扮して潜入すれば、現実世界で愛梨を狙った者達についてのことも何か分かるかもしれない。
そうーー確信に満ちた願いを込めながら。
まずは陽動作戦を成功させないとな。
朧気に揺らめく優しい雪に見守られながら、望は改めて、今までの出来事を呼び起こす。
愛梨を取り巻く悲しみに暮れた儚き過去。
それはそう遠い時ではない筈なのに、もうずっと昔のことのようで。
手を伸ばしても届かない程に、明るい未来の光だけが彼女の心を照らしているような気がする。
腰まで伸びた透き通るようなストロベリーブロンドの髪。
病的なまでに白い肌。
穢れなき白を基調したドレスは、愛らしいフリルと金糸の刺繍で上品に彩られている。
まるで物語の中の眠り姫のような出で立ちに、一目で人を惹き付けるほどの美貌。
今も愛梨のことを考えていると、まるで意識が吸い込まれそうになる。
初めて愛梨と出逢ったときのような衝撃は――時間をかけ、経験を積み重ねて変化し、胸を苦しくさせるほど、強いものへと変わっていた。
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