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留菜マナ
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第ニ百ニ十一話 久遠の鳥籠①

公開日時: 2021年4月26日(月) 16:30
文字数:1,609

「……全ての攻撃を防ぐか。特殊スキルの使い手、厄介な相手のようだな」


全ての攻撃を凌ぎきった望とリノアを前にして、『カーラ』のギルドメンバーの一人が焦燥を抱く。


「構うことはない! たった数人で、この人数のプレイヤー達を相手にできるはずがない!」


闊達豪放な態度で、『カーラ』のギルドメンバーの男が指示する。

千差万別な武器を構え、『カーラ』のギルドメンバー達と彼らが召喚したモンスター達はゆっくりと望達に迫ろうとした。


「妹よ、頼む!」

「うん!」


有の合図に、花音は跳躍し、一気にモンスター達へと接近する。


『クロス・バースト!』


今まさに望達に襲いかかろうとしていたモンスター達に対して、花音が天賦のスキルで間隙を穿つ。

花音の鞭に搦(から)め取られた瞬間、鞭状に走った封印の効果によって、モンスター達は全ての特性を封じられた。

さらに追い打ちとばかりに、花音は鞭を振るい、何度も打ち据える。


『元素還元!』


有は、『カーラ』の魔術のスキルの使い手達が放った炎の珠に向かって杖を振り下ろした。

有の杖が炎の珠に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

炎の珠達が、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。


「炎の珠の寄せ集めでは、トラップアイテムを一つ作るくらいが関の山だな」


有は一仕事終えたように、眩しく輝く杖の先端の宝玉を見る。


『元素復元、覇炎トラップ!』


今度は武器を振り下ろしてきた『カーラ』のギルドメンバー達に向かって、有は再び、杖を振り下ろした。

有の杖が床に触れた途端、空中に炎のトラップシンボルが現れる。

『カーラ』のギルドメンバー達がそれに触れた瞬間、熱き熱波が覆い、行く手を阻む。


「花音、勇太、多少のダメージは堪えろ」

「うわっ!」

「なんだ?」


花音と勇太に迫り来るプレイヤー達に合わせて、奏良が放った銃の弾が全方位に連射される。

放たれた弾は、対空砲弾のように相手の攻撃にぶつかり、『カーラ』のギルドメンバー達を怯ませた。


「マスターとリノア様を渡すわけにはいきません!」


プラネットは吹っ切れた言葉ともに、両拳を迫ってきたモンスター達に叩きつけた。

それと同時に高濃度のプラズマが走り、爆音が響き渡る。

煙が晴れると、召喚されたモンスター達は焼き尽くされたように消滅していった。


『元素還元!』


有はその隙に、床に向かって杖を振り下ろす。

有の杖から、放射状の光が放たれる。

その光が、トラップがある場所に触れた途端、とてつもない衝撃が周囲を襲った。

トラップが、まるで蛍火のようなほの明るい光を撒き散らし、崩れ落ちるように消滅したのだ。


「俺達もトラップを解除していこう!」

「はい」

「ええ」


有に先導されるかたちで、徹とリノアの両親もまた、魔弾アイテムを使ってトラップを破壊したり、その効果を消失させていく。

信也が仕掛けたトラップ全てを解除することは出来ないが、少なくともロビーに仕掛けられたトラップを無効化することができるはずだ。


「全て解除するまで、先行きは長そうだな」


有の切羽詰まった声は、ぶつかり合った望達と『カーラ』のギルドメンバーの天賦のスキルの使い手の剣戟に吸い込まれて消える。


「絶対に、このダンジョンからリノア達を救ってみせる!」


自分よりレベルの高い天賦のスキルの使い手達に圧倒されながらも立ち向かっていく、勇太の強い気概。

それに応えるように、望とリノアは剣を一閃し、多くの『カーラ』のギルドメンバー達を倒していった。


「このまま、行けば、ロビーまで行けるかもしれない。だけど、ロビーには『カーラ』のギルドマスターがいる。俺が攻撃をすれば、彼女の座標を変えられてしまうだろうな」

「このまま、行けば、ロビーまで行けるかもしれない。だけど、ロビーには『カーラ』のギルドマスターがいる。私が攻撃をすれば、私の座標を変えられてしまう」


しかし、望とリノアは戦局を見据えながら、漠然と消しようもない不安を感じていた。

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