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留菜マナ
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第五百話 さよなら、過去の世界⑦

公開日時: 2024年7月29日(月) 16:30
文字数:1,087

「リノア、おまえの望みは美羅になることじゃないからな」


勇太は遠い記憶に掘り起こしたことで、改めて自分が為すべきことを触発された。

リノアは望の側なら動くことが出来る。

同じ言動だが、話すことも出来る。

だが、それでも心配の種は尽きない。

信也を捕らえ、かなめを倒したとはいえ、現実世界のリノアは今もまだ、『レギオン』と『カーラ』の関係者がいる病院に囚われたままだからだ。


久遠リノア。

同じクラスメイトで、いつも意気投合していた彼女。

些細な喧嘩が元で絶交中だった彼女。

だけど、不器用な俺はいつまでも彼女に謝ることすらできなかった。

だから、今度こそ、彼女に謝りたい。

そして、もう一度、彼女に笑ってほしい。


幼い頃の勇太は毎日が楽しくて仕方がなかった。日々、大好きな幼なじみのリノアと遊んで、家に帰れば優しい笑顔で家族が迎え入れてくれる。

そんな当たり前の幸せな日々。

これからもそんな日々が続くと思っていた。


『勇太くん』


大輪の向日葵のような、思わず目を奪われるリノアの笑顔。

俺は幼い頃からリノアが好きだった。

時が廻り、季節が廻っても、この思いだけは変わらない。

リノアに伝えたい想いはたくさんある。

これから長い時を一緒に過ごすたびに、それは増えていくのだろう。

一言に集約できない気持ちはいつか全部、彼女に伝えきれる日が来るだろうか。

分からない。分からないけど。

これだけは確かだ。


「絶対にリノアを救ってみせる!」

「「勇太くん……」」


望とリノアは勇太の決意に目を見張り、息を呑んだ。


「リノアを元に戻したら、別の者が美羅の器になる。それを止めることはできないかもしれない。だが、一時的に美羅という『救世の女神』をデータの集合体に戻すことはできるはずだ」

「リノアを元に戻したら、別の者が美羅の器になる。それを止めることはできないかもしれない。だが、一時的に美羅という『救世の女神』をデータの集合体に戻すことはできるはず」


そう考察した望とリノアは、この場であの疑問を投げかけることを決断する。


「なら、別の者が美羅の器になる前に、美羅そのものを消滅させるしかない」

「なら、別の者が美羅の器になる前に、美羅そのものを消滅させるしかないね」

「ああ、そうだな」


望とリノアの断言に触れて、勇太は想いを絞り出すように美羅の残滓に懇願する。


「頼む! 教えてほしいんだ!」


大切だった。勇太を導く光だった。

ただ、リノアが傍にいてくれるだけで強くなれた。

リノアの笑った顔も、泣いた顔も、恥ずかしがる顔も、ふて腐れた顔も、全てが愛おしいと感じる。


「俺はどうしてもリノアを救いたいんだ!」


そう言う勇太の目には光るものが浮かんでいた。

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